IoT向け無線インフラ、LPWA“台風の目”に

KDDIによるソラコムの買収は前哨戦

IoT(モノのインターネット)の基盤となる無線インフラにおける主導権争いが新たな展開を迎えている。台風の目は「ロー・パワー・ワイド・エリア(LPWA)」。消費電力が少なく、1基地局当たり数キロメートルをカバーできる新しい通信規格だ。LPWAは複数方式が乱立するが、勢いがあるのは「ローラWAN」「シグフォックス」の2大勢力。普及の好機に、キャリア(通信事業者)やソリューションベンダーなどによるつばぜり合いを繰り広げている。  携帯電話は格安SIMで市場の裾野を広げた。格安SIMは人だけでなく、モノや機械同士の“会話(データのやりとり)”にも適用可能だ。そこに焦点を当てた仮想移動体通信事業者(MVMO)が台頭し、IoTの普及に拍車が掛かっている。  IoT向け通信プラットフォームの技術進化は目覚ましい。携帯電話の第3世代(3G)回線や無線LAN「Wi―Fi」の普及はIoTの活用を後押ししている。高速・大容量なら「LTE」が主役だが、2020年には第5世代移動通信システム(5G)も立ち上がる。コネクテッドカー(つながる車)などIoTの新たな需要も期待できる。  ただ、水道やガスの使用量の自動測定といった低頻度・低データ量の用途は高速・大容量回線では採算が合わない。もう一つの技術進化として、格安SIMやセンサーなどから得た低速・低頻度のデータを広域で扱う仕組みが求められている。  同分野には省電力で安価な通信規格として2・4ギガヘルツ帯を利用する「ブルートゥース」「ZigBee(ジグビー)」や、日本発の通信規格「Wi―SUN」などが群雄割拠する。現状はそれぞれの優位性を生かし、適材適所で使い分けられているが、IoT活用では一長一短がある。  例えばブルートゥースは使い勝手はよいが、通信距離が数メートルと短い。Wi―Fiも通信距離は100メートル程度が限界。ジグビーはセンサーなどの計測用途が多いが、いずれも「帯に短し、たすきに長し」といったところ。  産業界にはIoTの実証実験は山とあるが、「案件の多くは提供者目線が目立つ」(羽部康博NECサービス・テクノロジー本部シニアエキスパート)。投資効果を踏まえると、実用化で二の足を踏む事例は数多い。  こうした市場のギャップを埋める技術として注目されるのがシグフォックスやローラだ。いずれも920メガヘルツ帯を利用し、基地局の免許(ライセンス)が不要。「LPWAの登場により、これまでネットワーク化できなかった領域にIoTが広がっていく」と梅田浩之日本IBMインダストリー・ソリューション事業開発ITアーキテクトは期待を寄せる。  シグフォックスは仏シグフォックスが主導する通信規格でサービスの提供は「1国・1通信事業者」。日本では京セラコミュニケーションシステム(KCCS、京都市伏見区)が基地局設置を含め公衆網型の通信サービスに進出し、パートナーは100社を超える。  ローラは米セムテック主導で、複数ベンダーが参画するオープン規格。ローラはシグフォックスのような公衆網型の通信サービスに加え、工場内などに閉じた自営網としても構築できる。日本ではソラコム(東京都世田谷区)が先行。NTTグループや関西電力などもローラの実証実験を進めている。  LPWAをめぐってはこの2大規格のせめぎ合いが注目されるが、7月にソラコムがKCCSのパートナーとなり、業界関係者を驚かせた。さらにソラコムは8月にKDDIの資本参加を受け入れ、連結子会社化。突然の身売りかとも思われたが、経営陣やNTTドコモの回線を活用したMVNOサービスなどは維持すると表明。KDDIの傘下入りでビジネスのレイヤー(階層)を上げ、今後拡張するキャリアの通信インフラを迅速に活用できる体制を整えた。  LPWAには免許が必要な「NB―IoT」「LTE Cat―M」などもあり、18年初めにもキャリアがサービスを始める見通し。  KDDIによるソラコムの買収はその前哨戦だ。LPWAをめぐる陣取り合戦は日増しに熱を帯びている。 (文=編集委員・斎藤実、葭本降太)

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