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「大分―松山」38分、九州・四国新幹線の可能性

文=佐藤樹一郎(大分市長)「豊予海峡ルート実現を」
「大分―松山」38分、九州・四国新幹線の可能性

大阪へのアクセスが短縮できる(山陽新幹線「N700系」)

 大分県の佐賀関半島と愛媛県の佐田岬半島を結ぶ海峡横断ルートを豊予(ほうよ)海峡ルートと呼ぶ。既存の関西―中国―九州を結ぶルートに続く、新たな国土軸になり得るものだ。昨年度大分市は調査機関に調査を依頼し、概算事業費や経済的な効果を明らかにした。このルートは日本全体の発展に寄与するもので、国のプロジェクトとして推進していただきたいと考えている。

関門」経由より近く


 豊予海峡の距離は約14キロメートル、最大水深は180メートル。昨年度実施した調査ではトンネルと橋の両面から検討を行い、そのルートを鉄道または道路でつなぐ案で検討した。その結果、事業費の面ではトンネル案が優位になった。2車線の高速道路と複線の新幹線を整備した場合の事業費は1兆6500億円と試算された。

 過去の調査では海峡トンネル部分だけで1兆―2兆円かかるとされていた。技術の進歩もあって想定よりコストが下がることが明らかになった。時間短縮効果だが、現在フェリー利用で289分かかる大分―松山間の場合、新幹線が開通すれば38分で結ばれる。また小倉経由の大分―大阪間は、現在234分だが、これが四国経由で136分と大幅な短縮になる。

地方の連携で効果


 国土交通省が定める費用便益分析によれば新ルートでは1日に1万8046人が新幹線を利用すると試算。1を超えるとメリットがあるとされるもので、1・20という数字が明らかになった。これに観光や企業集積の効果も加わる。観光消費増加に伴う九州・四国地方の波及効果は368億円と算定された。

 四国の方々に関心を持ってもらうことも重要だ。このルートは四国新幹線の一部をなすことから、整備計画への格上げを国に訴える必要がある。

 今年5月には大分市でシンポジウムを開き、関係市町村と意見交換した。原子力発電所が立地している愛媛県伊方町の町長からは「何かあったときの命の道だ」と発言があった。地域が連携して機運を高めることが大事だと考えている。

 今回このように時間をかけて調査をしたのは、事実に基づいた議論ができるように、という思いからだ。

 東京五輪を控え東京への一極集中がますます進んでいる。社会基盤が整備されているか否かは、地域間競争の大きな要因になる。

 人口減少社会の中で大きなプロジェクトは不要だという議論になりがちだが、地方都市が連携することにより、大きな効果を生むということを国民の皆さんにも認識してもらう必要がある。

 日本の国土の4島のうち、四国と九州の間だけが直接陸路でつながっていない。広域的な経済圏の形成や災害時の代替ルートとして、国レベルでもメリットは大きいと考える。
四国新幹線PR動画より

【略歴】
佐藤樹一郎(さとう・きいちろう)80年(昭55)東大経卒、同年通商産業省(現経済産業省)入省。06年中部経済産業局長、09年中小企業庁次長。15年大分市長。大分市出身、59歳。
日刊工業新聞2017年9月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
7月に四国4県や四国経済連合会などが四国新幹線の早期実現に向けて4県の官民政の連携を強めるための新組織「四国新幹線整備促進期成会」を立ち上げ、四国では少しずつ新幹線誘致の機運が盛り上がってきているようだ。JR四国顧問の梅原利之氏は「四国新幹線は西日本全体の浮揚にも重要」とし関西の経済界に働きかけている。今回は九州(大分)側からのラブコール。豊予海峡をつなぐのは夢のある話だとは思うが、この先、地元住民、メディアも含め日本人が愛する新幹線の魔力はどこまで通用するか。

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