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漁獲量の3割は乱獲。商社が「養殖」に挑む

水産資源の枯渇に「待った」をかける
漁獲量の3割は乱獲。商社が「養殖」に挑む

えさやりなどで工夫する豊田通商

 人口増加や新興国の経済成長などで、世界的に水産物の需要が拡大する一方、水産資源の枯渇が問題となっている。大手商社では天然資源の減少が顕著なマグロを中心に、2010年ごろから養殖事業への参入が相次ぎ、生産量を拡大してきた。需給ギャップがなかなか埋められず、国際的な水産資源の取り合いも深刻化する中、三井物産が陸上でサーモンを養殖する事業に参入するなど、新たな動きも出始めている。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の天然の水産物の漁獲量は90年代から、8000万―9000万トンで推移しており、変わっていない。一方、水産物の消費量は年々拡大し、90年代は1人当たり14・4キログラムだったが、14年に20キログラムを超えて上昇が続く。

 漁獲量に大きな変化がない中で、資源状態が評価されている漁業資源の31・4%は乱獲の状態にあるとされる。マグロやサンマなどは、各国間で取り合いとなっており、天然資源に頼らず、養殖で水産物を確保する必要性が年々増している。

 1日まで韓国・釜山で開かれた中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の第13回北小委員会は、日米韓にカナダ、クック諸島、フィジー、フィリピン、台湾が参加。枯渇が懸念される太平洋クロマグロの漁獲数について、資源の回復度合いに応じて漁獲枠を増減する案で合意した。

 日本の提案に沿った合意内容だが、資源量が減少すれば当然、漁獲枠は少なくなる。また、規制緩和に慎重な米国などの意見を踏まえて、著しく資源量が低下した場合の緊急措置も設けるなど、水産資源管理の厳格化の方向に変わりはない。
                   

三井物産がベンチャーに出資、サーモンを陸上で


  三井物産は4月に水産物の閉鎖循環式陸上養殖システムを開発したベンチャー企業、FRDジャパン(さいたま市岩槻区)に出資した。FRDジャパンのシステムを活用し、サーモンを陸上で養殖、販売する。

 FRDジャパンと連携し、国内にサーモントラウトの大規模陸上養殖場を建設する計画で、18年夏までにパイロットプラントの操業をはじめ、19年には出荷する計画。20年には年産1500トンの商業プラントにするための追加投資の実施を目指す。

 FRDジャパンの陸上養殖システムは、バクテリアを利用した高度濾過技術により、天然海水や地下水を使用せず、人工海水を閉鎖循環させながら水質を維持できる。サーモンの養殖は水がえさで汚れるため、1日に全体の15%程の水の入れ替えが必要。海水などを冷却して入れ替えるため、電気代がかさむことなどがネックだ。

 だが、FRDジャパンのシステムでは、水を替える必要がなく、水温を維持するだけで養殖が可能で、コストを大幅に抑制できる。FRDジャパンの陸上養殖システムはサーモンに限らず、養殖が可能だが、三井物産は世界的に消費量が多いサーモンを選んだ。

 サーモンをはじめとする水産物は、畜産品、乳製品に次ぐ主要な動物性たんぱく質。世界中で食べられており、今後も消費量拡大が見込まれる。サーモンは牛や豚に比べて飼料効率も良く優位性が高い。

 サーモンの養殖は海水温が低い地域でなければ難しい。しかしFRDジャパンの陸上養殖システムなら世界中で養殖が可能。三井物産では千葉県内の工業団地で年内にもプラントを着工する。消費地の近くで生産・出荷する仕組みを構築する。

稚魚からの育成が最も難しいマグロ


 乱獲などで資源が枯渇し、漁獲量が制限されるなど、水産資源として、サーモン以上に厳しい状況にあるのがマグロだ。近畿大学を中心に養殖技術の開発が進んでいるが、これを活用し、商社も取り組みを進めてきた。

 豊田通商は10年にツナドリーム五島(長崎県五島市)を設立し、マグロの養殖事業に参入。豊田通商のマグロ養殖の特徴は「ヨコワ」と呼ばれる体長30センチメートル程度の幼魚に特化している点だ。

 近畿大から稚魚を仕入れ、長崎県五島列島の福江島にある海上いけすでヨコワに育てて養殖業者に販売する。豊田通商の養殖はあくまで中間養殖で、ヨコワの販売先には双日や三菱商事など他の商社もある。

 豊田通商がヨコワの養殖に特化した理由は「マグロが減少して養殖の必要性が増しているが、稚魚からの育成が最も難しく、困っている業者が多かった」(北山哲士農水事業部水産養殖グループリーダー)ためだ。

 多くのマグロ養殖は天然の幼魚を仕入れて、2―3年間育てて出荷しており、「養殖も結局は天然に頼っている」(同)。乱獲による天然幼魚の減少や国際的な漁獲規制の強化で、幼魚の確保が養殖業者の生命線となっている。

 全くノウハウがないまま飛び込んだ養殖事業は、当初、当然のごとく技術の壁にぶつかり、稚魚の生存率は2%。仕入れてもほとんどが死んでしまう状態だった。

 だが、近畿大と協力してえさのやり方や輸送方法を工夫し、いけすを円形にするなど研究を重ね、生存率を35%まで向上した。

 現在、6基の水槽で養殖しているが、20年をめどに16基まで拡大する計画。「足元は生存率25%程度で推移しているが、50%を目指している」(同)。改善を進め、強い種苗の生産を目指す。天候や潮流など蓄積したデータを生かし、効率化やコストダウンも図る。

双日、IoTやAIを活用


 双日は08年に双日ツナファーム鷹島を設立し、商社としては初めて、クロマグロの養殖事業に参入した。10年からは出荷を開始し、販路を広げている。三菱商事も傘下の東洋冷蔵を通じて13年に参入している。いずれも、幼魚を仕入れ、成魚に育てる事業だ。

 双日も当初は苦戦したが、水揚げ量は10年度の41トンから16年度は400トンと約10倍に拡大した。幼魚から成魚への養殖技術はほぼ確立。30基のいけすで養殖可能な上限まで生産できている。

 さらに増産したいが、幼魚から成魚への養殖は天然の幼魚を保護する規制があり、養殖事業者ごとに生産量が決められている。これ以上生産量を増やすのは難しい。

 完全養殖であれば規制に触れない。マルハニチロや極洋などの水産大手は完全養殖の技術の確立と事業化を進めている。ただ、完全養殖の技術的なハードルは依然高く、コストとの折り合いが付かないのが現状だ。

 双日ではNTTドコモなどと組み、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)を活用して、養殖の期間を短くするなど、収益性を高める方向にかじを切っている。
双日ツナファーム鷹島のいけす

(文=高屋優理)
日刊工業新聞2017年9月4日
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
商社各社が養殖しているまぐろを何度か食べましたが、なかなか美味しいです。

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