うつ病になったSEを農家に預けると、なぜか1年後には元気に

溝口勝(東大大学院農学生命科学研究科教授)田舎にこそIoTを

 農業IoT(モノのインターネット)がもてはやされている。国の第5期科学技術基本計画がソサエティー5・0という「超スマート社会」の実現を掲げ、ロボット、人工知能(AI)など、先端産業から農業に応用しやすそうな分野予算の威勢がよいからである。  東京大学農学部長だった生源寺眞一先生は、10年前の論文で日本農業を付加価値型(V型)と土地利用型(C型)に分類し、日本におけるC型農業の変革の重要性を論じた。その観点で言えば今の農業IoTはハウス野菜、畜産、大規模畑作などのV型に偏り、C型農業への参入は進んでいない。  コメや小麦などの土地利用型経営は、大規模農地を持つ外国にかなわないと思われている。しかし、外からは見えないが日本の水田の地下には透水性パイプ(暗渠〈あんきょ〉)が張り巡らされ、まるで地下工場のように灌漑〈かんがい〉と排水が自由に制御できるようになっている。  それを利用して外国ではまねのできない高品質米の生産に取り組む農家がいる。そうした農家を狙って、最近では水田水位監視サービスが出現しているが、まだまだ普通の稲作農家が導入できる価格ではない。  現在の農業IoTは温室など屋内環境で育った技術である。屋外のフィールドでは、まず通信と電源の確保が難しい。また、気温・湿気・風雪などの気象や動植物との闘いの連続でもある。  そんな中、C型農業のIoTを進めるには過酷なフィールドでも使えるタフな技術の開発が必要である。  経済の論理で通信インフラの整備は人口の多い都市部が優先され、人口の少ない田舎は取り残されている。ユーザーがいないところにインターネットを導入しても民間会社の儲けにはつながらないからである。  ♪はぁ電源もねぇ、通信もねぇ、オラこんな村イヤダぁ〜。今も昔も若者は文明の利器のない田舎に魅力を感じず、都市に逃げていくことになる。でも逆に田舎に通信インフラがあったならばどうだろうか。  先日会ったIT系会社の社長さんの話が印象的だった。「うつ病になった若いシステムエンジニア(SE)を農家に預けると、なぜか1年後に元気になって戻ってくるんだよねぇ」。  農業には人の心を癒やす機能もあるらしい。田舎に空気のようにインターネット環境が備わっていたなら、都会では思いもよらないユニークで斬新(ざんしん)なIoT技術が生まれる可能性がある。  超スマート社会は田舎にこそIoTインフラを整備することで早く実現できるように思う。ただし、そのインフラは日本国内でガラパゴス化しないように、世界中のどこの田舎でも利用できる規格でなければならない。 【略歴】 溝口勝(みぞぐち・まさる) 82年(昭57)東大農卒、84年東大院博士中退、同年三重大農学部助手を経て08年より現職。専門は国際情報農学・農業土木学。「3.11」以降、福島県飯館村の農業再生の研究に取り組んでいる。栃木県出身、57歳。農学博士。

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