国立大発VC、強いライバル意識も「経営者不足」に課題

どうなる2号ファンドの設計期限

抗菌ペプチド、抗体誘導ペプチドを活用した医薬品などを開発する(OUVC出資先のファンペップ提供)

 東北、京都、大阪の3国立大学の出資事業で、各大学子会社のベンチャーキャピタル(VC)の活動が本格化してきた。最初の「1号ファンド」の投資実行は各社10社前後になっている。一方でベンチャー(VB)のかじ取りを任せる経営者の候補人材不足や、次に立ち上げ予定の2号ファンドの期限など、共通する課題も多い。3大・3VCの担当者に展望を聞いた。  3国立大に東京大学を加えた、4国立大の大学発VBに向けた出資事業(官民イノベーションプログラム)は、2014年1月施行の政府の産業競争力強化法により可能となった。  東大は在京の関連VCを踏まえた調整に時間がかかったうえ、民間ファンドに出資する特殊な方式を採っていたこともあり、活動が遅れた。  これに対し3大学・VCは同じ方式でファンド組成は15年7月から半年間に集中。大阪大学ベンチャーキャピタル(OUVC)、東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP)、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)のファンド組成が続いた。各社には自然、ライバル意識が育っている。  各1号ファンドは動きだしたばかりだ。4VCの1号ファンド総額は約632億円だが、まだ投資実績はその1割程度にすぎない。  実行額が少ない一因は一般の民間VCと違い、「大学発VBの起業直後に投資をする」というミッションがあるためだ。ただ今後は、設備投資の需要が出てきて投資額も膨らむ見込みだ。実際に投資済VBに対する追加の投資事例も出はじめた。  京大は、VCのみやこキャピタル(京都市伏見区)と、日本ベンチャーキャピタル(東京都千代田区)のファンドを“京大認定ファンド”として、京都iCAPとの連携を強化している。  「民間VCとともに投資する協調投資の上、我々がリードをとる形になっている」と京都iCAPの室田浩司社長は明かす。また、京大の阿曽沼慎司理事は「社員のキャピタリストたちは、大手製薬企業における新事業の開発経験者ら粒ぞろい」と、VCと大学本部の強固な信頼関係をのぞかせる。  京大は6月に東大、東北大とともに特別な規制緩和がされる文部科学省の「指定国立大」に選ばれており、大学の知を活用したコンサルティング会社の新設を計画中。  京都iCAPと、技術移転会社の「関西ティー・エル・オー」の3社での相乗効果を図る。VCの投資先もライフサイエンスやIT、エネルギー・素材とバランスがよいのも特徴だ。  これに対し、東北大の強みであるモノづくり系に投資先を特化したのが東北大のTHVPだ。材料や電気・電子の分野は通常、開発に期間も資金もかかるうえ、一般的に株式上場後の株価も高くならない。  それだけに「民間VCはやりたがらないが、イノベーション創出には大事な分野」だと樋口哲郎THVP取締役は説明する。東北地域の産業振興のため、下請けに甘んじていた中堅・中小企業が東北大と共同研究する案件も投資対象にしている。  各社とも起業の候補となり得る技術シーズは豊富だが、VB経営者などの候補人材の不足が悩みの種だ。阪大の産学共創本部の北岡康夫副本部長(大学院工学研究科教授)は、「医学系の研究者なら、例えVBが頓挫しても病院勤務の道もあるため、思い切って取り組める。  工学系の研究者の場合、VBのリスクを考えて不安になる面がある」と課題を指摘。「セーフティネットを作れないか」と思案する。  東北大は、起業家教育に長けた「アクセラレーター」が学内施設に入り、若手研究者や博士学生に実践教育をする仕組みを秋から始める。  学内からの人材輩出に注力すると同時に、「外部を巻き込み、多様な人に仙台へ来てもらう」(東北大の矢島敬雅理事)両面作戦を掲げる。  起業人材が東京に偏る問題は京大も同じだ。最近、東京の起業家候補30人ほどが登録する「アントレプレナー・キャンディデート・クラブ」を始めた。  iPS細胞(人工多能性幹細胞)やワイヤレス給電など最先端の京大研究者と、7月に開設した東京の新拠点で交流。次の起業プランを暖めていく。 (文=山本佳世子、大阪・安藤光恵)

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