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車輪が滑って発生する電車の“空転”、早期に検知

鉄道総研が開発、JR西日本の「323系」で実用化
車輪が滑って発生する電車の“空転”、早期に検知

大阪環状線の車両「323系」(写真はイメージ)

 鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は、雨天時などに車輪が滑ることで起きる電車の“空転”を早期に検知する技術を開発した。電動機の電流情報を使い、従来の回転速度の変化を用いる方法よりも1秒程度早く空転を検知可能。空転から回復時の急加速も抑えられる。三菱電機の車両用電機品に機能を搭載し、JR西日本の「323系」で実用化した。

 二つの電動機を一つの電力変換装置で制御する“1C2M方式”の電車に適用する。空転は進行方向の前方から始まることが多い。空転による負荷低下に伴って減少する電流値の変化を見て、空転の兆候を把握する。

 加速力が低下する前に制御できるため、空転時の平均加速度が5%超向上。空転回復時の急加速で起きる前後方向の振動が従来比4割以上抑えられる。

日刊工業新聞2017年9月1日



三菱電機が仕掛ける「IoT電車」


 三菱電機は鉄道車両にIoT(モノのインターネット)技術を組み込む開発を進めている。カギとなるのは鉄道車両の頭脳とも言われる「車両統合管理装置(TCMS)」。TCMSに車両データを集め、地上の管理システムと連携。車両用電機品の予防保全サービスなどの実現を目指す。鉄道車両のIoT化により、ビジネスの幅が広がりそうだ。

 鉄道車両にはモーターやブレーキ、空調、車内案内モニターなど多様な機器が搭載されている。これらの状態を把握し、適切に制御する役割を担うのがTCMS。運転台などに設置され、運転手とバディを組む。

 TCMSを導入するメリットの一つは、効率化を図れる点にある。列車編成全体の機器を統合制御することにより、車両ごとの回生ブレーキの使用を最適化したり、走行位置ごとの最適なスピードを乗務員に示し省エネ運転を支援したりできる。

 今後はIoTを活用したTCMSの進化に期待がかかる。同社はTCMSのほか、車両を動かすモーターからブレーキ制御装置、空調機器まで手がける。

 こうした強みを生かし、IoTを活用した高付加価値サービスの提供を狙う。三菱電機の根来秀人社会システム技術部次長は「当社は車両用電機品を幅広く取り扱っており、優位性を発揮できる」と説明する。

 具体的には無線で車両と地上管理システムを連携しリアルタイムに情報をやりとりすることにより、乗務員の支援や電機品の予防保全、消耗品の交換時期の最適化といったサービスの開発を目指す。

 特に電機品の予防保全サービスについては「多様な機器を手がけているので、部品の劣化状況を総合的に判断できるノウハウがある」(根来次長)としており、実現に自信を示す。

 一方で課題もある。「劣化具合の判断はメカニカルな部品では比較的容易だが、電子機器は難しい」(同)と指摘する。正確な予防保全にはビッグデータ(大量データ)の収集が不可欠で、通信システムの進化も不可欠な要素となる。今後は鉄道会社との連携を強化し“IoT列車”の実現を目指す。
                  

(文=後藤信之)

日刊工業新聞2017年3日16日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
三菱電機は2013年に世界で初めて「フルSiCモジュール」を使った鉄道車両用インバーターを製品化するなどこの分野のパワーエレクトロニクスでは世界でも有数の技術力があるだろう。そこに今後はいかにIoTを組み合わせでビジネスをスケール化、単なる物売りから脱していくか。

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