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“東京の町工場”、「職人の腕」存続ピンチ

大田区が直面する課題。強みあっても、人材集め苦戦…
“東京の町工場”、「職人の腕」存続ピンチ

バフ研磨をする神代工業の神戸常吉さん

 東京都内随一の製造業の集積地である大田区では、後継者への事業承継とともに“職人技の承継”が急務となっている。同区の多くの企業が、手作業でしかできない独自技術や多品種少量生産を強みとしている。汎用機を使った加工も健在だが、職人の高齢化が進み、技術の維持が難しくなっている。

 職人希望者の確保に苦戦する企業もある。金属の研削・研磨を手がける神代工業では、羽布と呼ばれる布で金属を研磨する「バフ研磨」の技術を承継する人材を探している。同社でこの加工ができるのは創業者の神戸常吉さん(81)1人。娘の皆方恵美子副社長は「確かに精度のいい機械は増えている。ただ手作業による細やかな研磨を残したい。どうにか次世代につなげたい」と切に願う。

 職人歴60年以上の神戸さんは、研磨技術の全てを経験で蓄積してきた。昔気質の職人として“技は見て盗む”が基本。質問すれば何でも答えるが、神戸さんから手取り足取り教えることはしない。わからないことを自分から見つけ、臆せず質問できる人材でなければ承継できない。

 皆方副社長は「バフ研磨は最終仕上げのため“こだわり”を持てる人でなければならない。質問ができてかつ向いている人となると探すのも難航する」と明かす。

約9200社が3400社に


 2014年に大田区が実施した調査では83年に約9200社あった同区の町工場は、3400社程度にまで減少した。発注側の大手企業の海外生産シフトを受けて量産の仕事が減り、廃業が相次いだ。近年は後継者不足による廃業も増え、さらなる減少が予想される。マンションなどの住宅地が増え、操業にやりにくさを抱える企業も少なくない。

 ただ、厳しい状況下でも独自技術を持つ町工場は強さをみせる。新分野の開拓などで生き残りをかけている。強みとなる独自技術を絶やさないためには、技術の承継が必要不可欠。だが、技術を承継する以前にまずは若手社員の採用が必要な、神代工業のような企業は多い。

 若手社員の採用・育成には、製造現場につきものの3K(きつい、汚い、危険)のイメージをいかに拭い去るかが大きな課題だ。各社はさまざまな取り組みを行っているが、新卒社員や若手中途社員の採用には苦戦している。

 そこで区内では地元の工業高校や専門学校と積極的に交流する動きがある。大田区の町工場を周知する授業の実施やインターンシップ(就業体験)の受け入れなどを行っている。採用事例は順調に増えており、今後に期待がかかる。
               

(文=門脇花梨)

日刊工業新聞2017年8月15日の記事から抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
定着率の向上も課題だ。職人に憧れて町工場に入社する若者もいるが、一人前の職人になるには忍耐が必要。マニュアルもない中、昔気質の職人から技を盗めず、辞めてしまう事例も多いという。若者に合わせて“教え方”を変えるのか、昔ながらのやり方になじむように教育するのか、町工場も選択を迫られている。 (日刊工業新聞南東京支局・門脇花梨)

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