「ニュースイッチ」3年目突入! 話題になった中小・ベンチャー10選
菱熱工業
菱熱工業(東京都大田区、近藤貢社長)は、組み立て式の1人用喫煙ボックス「組立式分煙装置」を発売した。コンパクトサイズのためオフィスや事務所に設置でき、喫煙者が喫煙所へ移動する時間を削減できる。価格は1セット20万円で、送料は2万円(いずれも消費税抜き)。2年以内に1万台の販売を目指す。
組立式分煙装置はドライバーさえあれば組み立てられる、簡単な構造。大規模な工事が不要で、設置スペースはあるが工事スペースがない場所にも導入できる。また、設置後の移動も可能だ。今後、たばこの販売許可を得るために喫煙所の設置が必要なドラッグストアなどにも提案し、導入を狙う。
ボックスの天井部分に光触媒フィルターを設置し、たばこのにおいをとる。消臭剤もセットになっており、2―3分ほどでにおいは消える。装置の外にはにおいがもれない。さらに灰皿を小さくしており、こまめな交換を必要とすることで消臭効果を高めている。
オフィスや現場に1人で喫煙するスペースを設け、移動時間や喫煙時間を減らす。喫煙者と非喫煙者で問題となる、休憩時間の格差を是正したい企業などに貢献できると見る。また、仕事をしている横で吸うことになるため、吸う本数の減少も期待できるという。
同社は神奈川県の受動喫煙防止条例に合わせて簡易喫煙ボックス「エンジョイスモーキング」を製品化した実績がある。これを改良し、工事不要の喫煙ボックスを開発した。
日刊工業新聞2016年9月15日
TBM
木材や水を使わず、石灰石から作る紙。LIMEX(ライメックス)ペーパー。紙とほとんど同じ軽さ、厚さながら耐久性、耐水性がある。製造に水をほとんど使用しないため、水不足に悩む地域では紙の代替になりえる。TBM代表取締役社長の山崎敦義氏は「若い世代が世界で活躍する」「世の中の役に立つ」事業を探求する中で石灰石からつくる紙に出会い、宮城県白石市の工場を皮切りに、世界を見据えた挑戦を続けている。
「自分が死んだ後も残り続ける会社を」
「子供の頃は、『せっかくなら大きなことに挑戦したい』という気持ちがありましたね。それが経営者になることだとは思っていませんでしたが」と話す山崎氏。大工に憧れ15歳で見習いに入ったものの、いろいろな経験を積みたいという好奇心が強くなり20歳で起業した。
中古車販売をはじめいくつかの事業を行っていたが、転機になったのは30歳で初めて訪れたヨーロッパ。何百年も前にできた街を見ながら歴史の重みを感じ、残りの人生で何をやり遂げるべきなのか考えさせられた。「起業してからの10年があっという間に過ぎてしまい、これを3回繰り返したらもう引退する歳になってしまう。今後経営者として、自分が死んだ後も残り続けていくような会社、事業をやっていきたいと思うようになりました」。残り30年で1兆円を狙える会社にしたいという気持ちが芽生えた。
歴史を変える可能性
そんな中で出会ったのが台湾製のストーンペーパーだ。はじめはその台湾メーカーの輸入代理店をしていた。取扱い当初から事業の拡大を見据えていたわけではない。「取り扱っているうちにビジネス上で尊敬する方々から『この事業は歴史を変える可能性がある』と評価されるようになっていきました。それならば、とことんやってみようと」。石灰石は日本で100%資源を賄えるだけでなく、世界でも埋蔵量が多い。半永久的にリサイクルが可能で、大きなポテンシャルを秘めているのだ。
自社でLIMEX(ライメックス)の開発を始めたのは約6年前。しかし一つ目の工場ができるまでには相当な苦労があった。地球規模では水不足が深刻化している地域があり意義がある。だが日本はその逆で、豊富な水資源が特徴。そんな製品が本当に求められているのか、と理解されないこともあった。さらに開発を始めた直後にはリーマンショック、2011年は東日本大震災と、大きな資金調達が必要なメーカーベンチャーにとってはまさに八方ふさがりになってしまった。
日本では埒が明かない状況に、山崎氏は海外での資金調達に乗り出した。「中東やシンガポールなどで、この事業に対する期待の声をたくさん聞くことができました。改めて可能性の大きさを感じる自信を持ちました」。その一方で「一つ目の工場ができたら戻ってきてほしい」という回答しか得られず、最初のリスクを取って投資してくれる人は一人もいなかった。
トライアスロンのような資金調達
命の恩人は日本で現れた。2013年2月6日、経済産業省イノベーション拠点立地推進事業「先端技術実証・評価設備整備費等補助金」に採択されたのだ。全く実績がなかったベンチャー企業が採択されるのは珍しいと山崎氏は話す。これにより工場設備投資のかなりの部分が補てんされた。今後の展望が見えてきたこともあり、出資者も増えていった。第一期に15億円の調達に成功し、工場を完成させた。「一番ハードルの高い資金調達だと思っていましたが、経産省が採択してくれていなかったら今の自分たちはない。親身になって相談に乗ってくれ、本当に感謝しています」。
工場はちょうど2年後の2015年2月6日に完成した。採択されてから2年以内に工場を建設しなければ予算が下りないことになっており、機械代金の支払い、工事などの当面の資金調達にも苦労した。「トライアスロンのようだった」と山崎氏は表現する。
平行して、製品そのものの研究開発には資金を惜しまずに3年ほど取り組んだ。当初輸入していたストーンペーパーには問題がいくつかあったのだ。紙の重さと同等にするための比重調整、品質安定化、さらに製造方法も改めた。従来はビニール袋の製造と似た工程だったが、平らなものを作る製造工程でなかったため、ムラができていた。そこで、同社では粉末石灰とペレット状のポリエチレンなどを混ぜ、圧力をかけて押し出したものをシート状に引き伸ばす方法をとった。元日本製紙専務取締役の会長が技術顧問となり、外部との連携も含め5~6名で研究を進めた。
海外ではストーンペーパーのニーズが高いが、日本では石灰から作られるプラスチック製品のニーズが高い。一般消費財になりえる量産型製品、高付加価値製品両方での製品化に向けて、他社と共同で研究開発を進めている。
現在は紙に比べ、製造コストが高いことがネックの一つ。素材、省エネ、機械の効率化に順次取り組んでいる。
東北から世界へ
復興支援のため、宮城県白石市に工場を構えた。「震災後、海外の方がたくさん支援してくれたのを被災地の子供たちは見てきた。その子たちが成長して、日本の技術を持って海外で役に立つという流れができれば理想的だなと。せっかくならそういったことを支援していきたい」。
さらに、東北新幹線白石蔵王駅からすぐの場所であり、東京や海外のお客さんが見学に来るには便利だという点も意識した。工場では地元の若者を採用。中東、アジア、ヨーロッパなどさまざまな国の人が視察に来ることが刺激になる。期待されていることを肌で感じることが、やりがいにつながる。2017年には量産工場を立ち上げ予定だ。これが世界展開時にはマザー工場になる。生産能力は年3万トン。製紙工場と比べるとサイズが小さく、展開しやすい。
工場完成後には、シンボリックなイベントとして最適と判断しミラノ万博を協賛した。同社LIMEX(ライメックス)製品が採用され、世界にアピールできた。「数年内には海外工場を作り、当初の目的である世界で活躍する人材の育成、世界に影響を与える製品を実現していきたい」と意気込む。
ニュースイッチオリジナル2016年04月11日