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世界でスマートコミュニティーを仕掛ける日本の実証ドライバーとは

NEDOが日本企業とタッグを組み、エネルギーシステム変革を先導
世界でスマートコミュニティーを仕掛ける日本の実証ドライバーとは

充電時間をシフトして風力発電の電力を吸収するEV(マウイ島)

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と日本企業がタッグを組んだ海外スマートコミュニティー(次世代社会インフラ)実証事業が、世界のエネルギーシステム変革を先導している。再生可能エネルギーとの共存を目指す米ハワイの事業は、小さな電源を束ねて一つの発電所のように扱う“仮想発電所”へと変貌を遂げ、ビジネス化に向けた最終段階に入った。マレーシアでは2階建て電気バスを世界で初めて運行させ、新しい都市交通システムとしてアジアに発信する。

ハワイ「仮想発電所」事業化へ一歩


 2013年に運転が始まったハワイ・マウイ島の実証事業は最終年度に突入した。日立製作所などが参加し、再生エネを使いこなすスマートグリッド(次世代電力網)を次々に構築した。もともと離島であるマウイ島は本土よりも高い火力発電の燃料費に悩まされてきた。火力依存を下げようと風力発電の導入を進めたことで再生エネ比率が30%に迫るまでになったが、新たな課題が出てきた。

 風力の発電量が急増すると、使い切れない余剰電力が大量発生する。発電が需要を上回ると電力の需給バランスが崩れ、最悪だと島全域が停電する。

 そこでNEDOが着目したのが、電気自動車(EV)の蓄電池だ。余剰電力が発生しそうになると島民が所有するEV200台に遠隔から充電を指示する。風力発電が作りすぎた電力をEVに消費させ、需給バランスを保つ狙いだ。風力も有効活用され、再生エネの利用量も増える。

 実証では、普段なら帰宅後19時に始める充電を、風力の発電が増える22時以降にシフトさせるなど制御技術を確認できた。

 風力発電からの電力供給が突然、途絶えた場合に備え、住宅の電気給湯器を遠隔停止する技術も試した。供給不足の解消が狙いで、EVの充電とは逆に電力需要を減らして需給バランスを保つ。NEDOの高田和幸スマートコミュニティ部主査は「供給不足を補う火力発電が起動するまで、遠隔からの制御が有効と考えられる」と手応えを語る。

 系統安定化のためにEVの蓄電池から系統に送電するV2G(ビークルツーグリッド)、家庭に送るV2H(ビークルツーホーム)も実証予定だ。EVの充電や電気給湯器の停止も含め、すべての機器を遠隔制御する。他にも住宅の太陽光発電システムを遠隔制御し、電圧上昇を防ぐ技術も確認した。

 すべてが実用化されると小さな電源を情報通信技術(ICT)でまとめ、一つの大きな発電所のように扱う“仮想発電所”が完成する。残りの実証期間で「仮想発電所をビジネスにするためのデータを採取する」(高田主査)といい、事業化が見えてきた。

スペイン・マラガ、EV充電時間帯を平準化


 EV社会の到来に備えたスペイン・マラガでの実証事業は15年度末で終了した。時間帯によってEVの充電が集中すると、一気に電力需要が増えて需給バランスが乱れる。そこで充電が重ならないようにEVを誘導する実証運転に三菱重工業などが13年から取り組んだ。

 実証では急速充電器23基、約200台のEVを市民や企業に日常的に使ってもらった。三菱重工などは、指定した時間に充電器を利用すると食事券に交換できるポイントを発行するなどの情報を配信し、誘導を試みた。

 NEDOの本間英一スマートコミュニティ部統括主幹は「EV利用者の心理がわかった」と成果を語る。利用者が個人なら自宅での充電が多く、誘導が難しいなどの知見を得られており「EVのカーシェアリング事業を検討する企業が知見をほしがっている」という。EVの普及につながる成果が出た。

<次のページ、カナダ、マレーシアの例>

※6月15日ー17日まで東京ビッグサイトで「スマートコミュニティJapan 2016」が開催されます。
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日刊工業新聞2016年6月9日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
FSが始まった11年当時、ハワイ実証は「スマートグリッド」の象徴的なプロジェクトでした。当時、日本では再生可能エネルギーの発電が増えすぎる課題も、仮想発電所のイメージもありませんでした。そういう意味で、数年先の社会を先取りしたプロジェクトと言えるのはないでしょうか。

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