ニュースイッチ

背後に安倍政権の意向あり?

日本郵政がIBM・アップルと提携
背後に安倍政権の意向あり?

左からアップルのクックCEO、日本郵政の西室社長、IBMのロメッティCEO(IBMのウェブサイトから)

 日本郵政が30日、米IBM、米アップルという世界を代表するIT大手2社と提携し、アップルのiPadとIBMが開発したアプリを使って、日本国内で高齢者支援サービスを展開すると発表した。しかもニューヨーク市内で開かれた記者会見には日本郵政の西室泰三社長に加え、IBMのバージニア・ロメッティCEO、アップルのティム・クックCEOまで参加するという豪華ぶり。当然、米国メディアもそれなりに大きく報道したが、そこで特に注目したいのは、安倍首相が26日から米国を訪問中という絶妙のタイミングであったこと。あくまで想像だが、日米のTPP(環太平洋連携協定)交渉が終盤を迎える中、今年秋に上場を予定しているものの、現在のところ政府が100%の株式を握る日本郵政がちゃんと米国製品を買っていますよ、というメッセージを米国の政府および経済界に示してみせた点だ。

 IBM、アップルの2社は2014年7月に企業向けモバイルサービスでの提携を発表している。この時でさえ、クック、ロメッティの両CEOはIBM本社で一緒に歩く写真を公開しただけ。会見には応じていない。それが一転して、顧客となる日本企業の記者会見にそろって登場するのは何とも奇妙な感じだが、この機会に米2社としてはそれまでの提携の成果をアピールするとともに、今回の3社提携の先にある日本郵政グループの情報システム更新需要に食い込むための関係づくりを狙っての対応ともいえる。

 日本郵政と米国企業をめぐっては、「前例」がある。2013年7月に米系保険会社のアフラックとの提携拡大を発表。アフラックのがん保険を扱う郵便局を1000から一気に2万に広げ、傘下のかんぽ生命の直営店でも販売するといった提携内容だった。安倍政権は同年3月にTPP交渉参加を決めており、日本郵政・アフラックの件は、初の交渉会合を前にした「米国への持参金」と見る向きも多かった。もちろん菅官房長官も西室社長も、当時の会見でそうした事実についてきっぱりと否定している。

 一方で、安倍首相は米国の産業界でもとくにシリコンバレーのハイテク産業への思い入れが強いようだ。今回の米国訪問でも30日には日本の現職首相としては初めてシリコンバレーを訪問し、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOや、ツイッターのディック・コストロCEOら著名起業家と相次ぎ面会。テスラモーターズのイーロン・マスクCEOとは、マスク氏が運転する同社の電気自動車「モデルS」の最新型に同乗し、再会を喜び合った。こうした首相のシリコンバレー好きが高じる形で、日本の中小企業やベンチャーのシリコンバレー進出を後押しする方針も打ち出している。

 安倍政権とシリコンバレーの関係の深さをうかがわせるエピソードとしては、2014年12月に行われた衆院選期間中の演説が記憶に新しい。安倍首相がさいたま市での街頭演説で唐突に「アップルが最先端の研究開発を日本ですると決めた」と暴露し、アベノミクスの成果と強調して見せた。結果的にマスコミ各社は裏取りに奔走する羽目に。その後、菅官房長官が横浜市内の会合で、横浜のみなとみらい地区にアップルの研究施設が「来年(2015年)早々に設置される」との見通しを明らかにし、実際、今日までその通りに事が運んでいる。

 さらに神奈川県の統一地方選挙でも似たような光景が繰り返された。投票日前日の4月11日、菅官房長官が横浜市内の街頭演説で「これを契機に、やはりアジアの拠点は日本にしようという優良企業が増えてくる。名前は出さないが、アップルに匹敵するような企業が準備を進めている」と声を張り上げた。2匹目のドジョウならぬ、2個目のリンゴになるかどうかわからないが、安倍政権と米国のIT企業との間には何やら蜜月に近い関係が出来上がっているようだ。
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
安倍首相はフェイスブックのヘビーユーザー。IT企業が多く加盟し楽天の三木谷会長兼社長率いる新経済連盟とも近しいが、シリコンバレー好きというのはちょっと意外な感じも。

編集部のおすすめ