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パレットに積まれた多種多様な荷物、ティーチングなしにロボットが積み替え

米キネマ社のソフト、深層学習で周囲の箱を区別して認識
パレットに積まれた多種多様な荷物、ティーチングなしにロボットが積み替え

Kinema Pickを搭載したロボット

 アーム型のロボットが自己学習を繰り返しながら、物流用のパレット(荷役台)に隙間なく積まれた大きさも色も形もバラバラな箱を吸着パッドでつかみ、1個ずつベルトコンベヤーに載せていく。こうしたロボット用ソフトウエアをシリコンバレーのスタートアップ、キネマ・システムズ(Kinema Systems)が開発した。事前に動作をプログラムしておく必要がなく、位置調整(キャリブレーション)まで自動化した世界初のパレット積み下ろしロボットだとしている。ジョージア州アトランタで4月4-7日に開催された製造・サプライチェーン関連見本市「MODEX2016」で発表した。

 工場の倉庫などで、同じ製品が入った同じ色、同じ大きさの箱が整然とパレットに積まれている場合は、ロボットでも荷下ろし作業が比較的しやすい。それに対して、インターネット通販の荷物配送などでは、大きさも色も形も違う箱が、パレットにランダムに積載されるケースがほとんど。ロボットでの対応が難しく、人手に頼っているという。特に荷物どうしがびっしりと隙間なくパレットに積まれていると、ロボットのマシンビジョンが複数の箱を大きな一つの箱と誤認識してしまうことも課題だった。

 キネマ・システムズ初の製品となる「キネマ・ピック(Kinema Pick)」というソフトは、2Dおよび3Dのロボットビジョンと、人工知能(AI)の一種であるディープラーニング(深層学習)手法を活用。自己学習で1個1個の箱の認識度を向上させながら、箱の上面中央部に吸着パッドを当て、アームを回転させコンベヤーの所定の位置に置くことができる。事前の作業は、パレットの位置(始点)とコンベヤーに荷物を置く位置(終点)を、QRコードのようなマークで認識させるだけ。後はタブレット端末の画面から作業開始を指示すればいい。現在、米国の複数の大手物流業者と組んで、実際の物流現場での実証実験を開始している。

 人間だとパレットから荷物を降ろしてコンベヤーまで運ぶのに1個当たり平均で6秒程度かかっているのが、キネマ・ピックを使うとそれより短くできる。キネマ・ピックは箱をつかむたびに「箱とはどのような見た目をしたものか」というコンピューターモデルを作り上げ、作業を繰り返し、学習を重ねていけばいくほど作業が手際よくなるという。

 ただ、鍵となるのは最初に取り出す1個目の箱。くっ付き合う周囲の箱が別物だとロボットが区別できれば、1個目の箱をうまく取り出せ、その知見をもとにその後のピッキング作業が容易になるためだ。IEEEスペクトラムにによれば、同社のセイチン・チッタ(Sachin Chitta)共同創業者兼CEOは、1個目の箱を認識する仕組みについては「秘密のタレ」とはぐらかしながらも、「実際の動作を見れば、誰にでもわかってしまう。動きと認識の組み合わせだ」というヒントを出している。同誌では、たぶん、荷物の山にロボットアームでわずかに力を加え、その反応や動きを観察することで、載っている荷物が一体ものの大きな箱なのか、複数の箱の集まりなのかを判断しているのではないかと推測している。

 一方、ウィロー・ガレージからのスピンオフ企業で、グーグルが2013年12月に買収した米インダストリアル・パーセプション(IPI)も似たようなロボットを開発済み。プログラムなしにロボットビジョンを使って、パレットから荷物を1個ずつ取り出す作業が行える(さらにそれを放り投げることも!)が、チッタCEOによれば、両者には明確な違いがあるという。IPIのデモでは、荷物と荷物の間に隙間があるようパレットに積載されていて、もともと箱を1個ずつ認識しやすくなっていると説明する。

 キネマ・システムズはシリコンバレーのメンロパークに本社を置き、チッタCEOとデイブ・ハーシュバーガー(Dave Hershberger)氏が創業。両氏ともオープンソースのロボットOSなどを開発するウィロー・ガレージおよび非営利研究機関のSRIインターナショナルでロボットのソフトウエア開発に携わっていた。さらにSRI在籍時代に開発したロボット用ソフトウエアプラットフォームは、グーグルと米医薬・医療機器大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が昨年に共同で設立した手術支援ロボット開発のバーブ・サージカル(Verv Surgical)にもライセンスされている。

【Kinema Pick】

【IPIの荷物取り出しロボット】
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
日本は産業用ロボットでは先進国だが、AIの頭脳部分はシリコンバレー企業が技術やノウハウで勝っていたりする。あの手術ロボットの「ダ・ヴィンチ」も元はと言えばSRIが開発したわけで、「人類に対するロボットの逆襲」よりも、「米国のロボットによる逆襲」のほうが、より現実的な脅威と言える。

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