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東大が女性活躍推進で示す潜在力

東大が女性活躍推進で示す潜在力

東大のウィーチェンジは大規模大学の活動モデルとして注目される(シンポジウムで、立っているのが林理事。東大提供)

研究を通じて世界と戦う大学は、伝統ある大規模組織でも大胆な変革が可能だという潜在力がある。東京大学は女性活躍推進において、それを実証しつつある。理事10人のうち女性は4人と、すでに半数に迫る。「新たに着任する教授・准教授の女性比率を4分の1にする」といった積極的な施策で、他大学を刺激している。(編集委員・山本佳世子)

東大は2022年度に、全構成員の意識改革から女性リーダー育成につなげる施策「UTokyo男女+協働改革#WeChange」(ウィーチェンジ)を始動した。注目を浴びた「女性教員300人雇用」はその一つ。6年間で着任・昇任する正規雇用の教授・准教授1200人のうち、4分の1に当たる300人を女性にするポジティブアクションだ。28年には退任者との差し引きで、在籍する教授・准教授約2300人のうち、女性は約400人と全体の17%にする計画だ。

達成に向けた具体計画を全学とともに各部局でも組んでいる。年3回程度の会議で副研究科長クラスが進捗(しんちょく)を確認し、好事例などの情報を共有する。遅れていてもペナルティーはないが、各部局の状況が可視化される点は影響力がある。

大胆な数値目標につながった転機は、21年に藤井輝夫総長がまとめた同大の基本方針「UTokyo Compass 多様性の海へ:対話が創造する未来」だ。機会あるごとに総長がこの基本方針を発信することで、「研究の卓越性は多様性によって生まれる」「大学の発展のためにダイバーシティー&インクルージョン(D&I)が不可欠」という認識が浸透した。

もっとも3段階からなるウィーチェンジの行動計画のうち、数値の引き上げは最終段階の取り組みだ。全学構成員の意識改革と女性研究者キャリアアップ支援を経て達成する。まず約1万人の全教員・職員を対象にアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の研修を始めた。

女性研究者の科学研究費助成事業の採択率や、シンポジウムの登壇割合などのデータを可視化して、男女の違いを見る分析も計画している。林香里理事・副学長は「女性が弱い部分などをエビデンスベースで把握できれば、より有効な支援施策が立てられる」とにらむ。その上で研究力強化が重要な若手、大型研究プロジェクトのリーダー、大学運営の幹部と、それぞれに合った支援をする。

一方、教職員・学生を問わない子育て支援として、全8カ所でキャンパス内保育所を整備した。一般に年度途中での入所は難しいが、同大の保育所は受け入れが可能だ。延長保育も18時までなどとする保育所が多い中、同大では21時までとしている。

職員の新規採用はすでに女性が過半数だ。研究者と異なりポジティブアクションの必要性はないという。本部の部長職は13人中3人が女性だ。「課長級の女性は大勢育っており、10年を待たずに大きく変わる」と今泉柔剛理事は見ている。

関連記事:女性研究者支援” 新段階…採用・昇進の大きな偏り解消

日刊工業新聞 2023年05月24日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
日本のトップの東大が、女性活躍推進でドラスティックに動いていることの影響は大きい。例えば「若い助教に女性は増えているけれど、理事はすべて男性」という国立大学は多い。これに対しては、表立っての非難はなくても、「より優れた大学があれだけ努力しているのに」という、社会の目が向けられるだろう。 東大は学内の温度差解消にもこの手を活用している。副研究科長クラスを頻繁に集めての会議により、周囲からじわじわと圧力をかけるという作戦だ。トップが明確に改革を掲げるも、現場がなかなかついてこない、という時の方策として、有効だなと感じた

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