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理工系出身者こそ最適!後輩向けのテキストづくり―Z世代の能力を取り入れてデジタル/グローバル時代を迎えたい

理系・語学系×企業ジョブマッチング/丸善出版
記者の目/ここに注目
□学部・修士時代の勉強内容も業務に直結
□女性マネジメント職が多く、風通しのよい社風
営業部長
増田 素美さん

「研究者や技術者、学生の方々を対象に、研究の礎となる専門書をメインで手がけており、編集者の半数以上は理工系出身者」と丸善出版の特徴を紹介するのは、増田素美営業部長。同社は1869年に創業した丸善の出版事業を2011年に分社化、2019年には創業150周年を迎えた。各時代の「知」を数多くの読者に届けてきた同社は、主に理工・医薬・人文社会科学分野の老舗専門書出版社として読者に長く愛され続けており、代表格は、理科・サイエンスの基礎データなどをまとめた『理科年表』だ。実験や研究活動を一度でも行った経験のある理系出身者なら、誰でも目にしたことはあるだろう。

若手もベテランも企画を提案

同社の刊行物の大半は理工学分野が占めており、3割程度が人文社会科学分野、残りは医学やその他の分野が占める。特に『化学便覧』や『実験化学講座』などの化学分野が最多で、手がける編集者は化学・生物・生命科学系の卒業生が多い。「化学系は元々多いが、分野を限定するつもりはなく、建築系学生の製図向け定番書籍『建築設計資料集成』シリーズなど、理工学系全般に認知度は高い」(増田さん)

企画段階ではベテランから若手まで誰でも意見を出し、提案できるそうだ。「新企画は関係者全員でよく揉んで、形にする。意見出しに物怖じする必要はなく、新人の発想だからと即却下することもない」(同)

こうした風通しの良い社風こそ、多くの書籍を生み出せる強みの一つと言える。

著者は各分野で研究を行っている現役の大学教授や研究者。企画の相談や原稿を通じて最先端の知に触れ、科学の発展に貢献できるのもこの仕事の醍醐味といえる。

女性の多さ・働きやすさに伝統と自信

“風通し”が表れているのは、これだけではない。増田さんは「製造業などの業界と比べると、理工系では女性の比率が高い。産休育休といった制度は確実に定着しており、病気療養に対する休暇やリモート勤務などといった配慮も当たり前に行われている」と評価する。現在、女性マネジメント職は増田さんを含め、マネージャー全体の4割を占めている。

同社の本づくりは、企画から執筆者選定、編集までを一貫して企画・編集部が手がけており、分野別に1グループあたり3人から8人程度の7グループ体制となっている。2022年は約100点の新刊を刊行し、2023年も同水準の刊行を予定している。

「多様な分野に興味を持って、
挑戦してほしい」

デジタル化やグローバル化が急激に進む昨今に向け、増田さんは「電子書籍や外国語版などにも力を入れている」と現状を語る。2022年には、シンガポールの出版社と共同で『理科年表』の英語版を出版した。増田さんによれば、サイエンスの全分野を網羅したデータブックは、世界的にも類を見ないユニークなものだそうだ。

また、オンラインサービスとして、理科年表のwebページや化学レファレンスサイトの他、医学・看護の映像教材配信も展開している。課題はやはり、デジタルやグローバルに対応できる人材の確保だ。今後入社するZ世代に増田さんは期待を寄せる。

代表的な刊行物
オンラインサービス

「専門にとらわれず多様な興味を持ってほしい」と、人事担当の青木寛子さんも声を揃える。「150年の歴史で積み重ねてきた、読者や著者から信頼のあるブランド。本づくりのプロセスや先生との信頼関係の土壌があるので、安心して挑戦し、経験を積んでほしい」と、青木さんは続ける。

著者となる大学教授などとの折衝や、顧客との対話を重ねる営業担当者とも連携が必要なため、決して1人の力で書籍は完成しない。増田さんは「周囲と連携しながら自分の良さをチームに還元できる人に適している仕事」と分析する。「執筆する先生のよいところを引き出す、“裏で汗をかく”仕事が得意な人なら合う。学生生活から良いアイデアが浮かんだら、ぜひ面接の場で教えてほしい。仲間となって、一緒に形にしていきたい」と呼びかける。

理系出身の若手社員に聞く
勉強したことをそのまま活かせる仕事

企画・編集部 第一部 第4グループ
南 一輝さん
(2020年入社)

大学院時代に、丸善出版の編集者が本づくりについて語るイベントに遊びに行き、そこで編集者という職業を知りました。本と科学が大好きで、科学の面白さを伝えたいと考え就職しました。現在は主に理学や工学分野を担当しております。入社して1年目で担当した『結び目の数学』は、高校時代にも読んだことのある本で、仕事でも携わることができ特に思い入れがあります。

本という形で著者の思いをどのようにして読者に伝えるのかを考える上で、大学院で最先端の研究現場に立ち会えたことは非常に役立っています。理系から出版業にはあまり目が向かないと思いますが、実は皆さんが勉強したことをそのまま活かせる仕事です。候補に入れてみてはいかがですか?

会社DATA
所在地 東京都千代田区神田神保町2-17
設立 2011年2月1日(創業1869年)
代表者 代表取締役社長 池田 和博
親会社 丸善CHIホールディングス株式会社(東証スタンダード市場)
資本金 5000万円
従業員数 77人 2023年1月現在
事業内容 書籍の刊行、映像教材の製作・発売、学術情報データのオンライン提供など
URL https://www.maruzen-publishing.co.jp/

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