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人気沸騰の大学DS教育、差別化のポイントはどこか

人気沸騰の大学DS教育、差別化のポイントはどこか

滋賀大では、学年を越えてのDS自主ゼミも活発だ

大学で数理・人工知能(AI)・データサイエンス(DS)を学ぶ新学部・学科の創設が相次ぐ。ビッグデータをAIなどで分析し、社会課題を解決する重要性が増しているためだ。各大学はどこにフォーカスして特色や強みを出すのか。DSによる学内再編を通じ、教育や研究現場の改革が進むことも期待される。(編集委員・山本佳世子)

数理的思考でデータを扱い、人工知能(AI)などで分析するDSは多くの分野で注目されており、学生が広く身に付けるべきだとの認識が高まっている。政府は内閣府の「AI戦略2019」で、全大学生がリテラシー(読解記述力)レベルの教育を受ける体制づくりに籏を振る。これらを受け新学部・学科の創設が相次ぐ。

先陣を切って17年度に開設した滋賀大学。研究者は約45人にのぼり、企業連携は100社超に膨らんだ。既存の経済学と教育学の大学院教育にDSを導入する計画も具体化。今後は文系の大学院改革に歩を進める。横浜市立大学は18年度にスタート。4月に1期生を世に送り出したが、同時に学部生の4割は大学院進学を選択した。医学部を併せ持つ医療DSが大学院の売りの一つで、高度な人材育成を志向する。

そのほか全国で計20程度の新学部・学科が、今年度までに新設された。

慶応義塾大学の場合、部局を越えた共通の学びを担当する学内組織を整え、23年度から正規授業を始動する。すでに延べ1万2000人が学ぶ課外活動「AI・高度プログラミングコンソーシアム」(AIC)を進めている。年500万円の企業参加費が活動の原資だ。「課外活動とはいえ、政府のDS標準カリキュラムを参考に、専任スタッフの確認で質を保証する」(矢向高弘准教授=AIC代表)という。

23年度開設では指定国立大学の一橋大学の参入が目を引く。社会科学とDSを1年次から同等に学ぶカリキュラムを構築した。「数件の共同研究やリカレント(学び直し)も詰めている」(渡部敏明教授)という。女子大学では京都女子大学、医科大学では順天堂大学もスタートする。

ただ普及とともに差別化が難しくなるのも事実。DSそのものでのアピール力は低下する。質の高い教育が競争力を左右する。

日刊工業新聞 2023年1月15日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
少し前なら「DS学部新設で他大学をリード、学生の人気もばっちり」だっただろう。しかし、社会ニーズや政府方針の強さとともに数が急増し、連携する企業や高校生など「どの大学がいいか」を念入りに調べるようになってきているのではないか。もっともDSの学びは「現代の読み書きそろばん」と例えられる。いずれは古くて時代に合わない学部・学科が消滅する一方、DS学部・学科は特別なものではなく、どの大学にもある普通の学部に変わっていくのではないか。

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