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ヒト受精卵のゲノム編集が英国で認可、ただし研究目的に限定

将来、医療機関での活用に道を開く可能性も
ヒト受精卵のゲノム編集が英国で認可、ただし研究目的に限定

研究を承認されたチームのリーダーを務めるKathy Niakan博士(フランシス・クリック研究所)

 ヒトの受精卵に対して、研究を目的としたゲノム編集が英国で1日に認可された。国の規制当局によって、正常な受精卵のゲノム編集による研究が承認されたのは世界初という。

 英国政府の「ヒトの受精および胚研究認可局(HFEA)」により承認されたのは、ロンドンにあるフランシス・クリック研究所で、発生生物学者のキャシー・ナイアカン(Kathy Niakan)博士率いるチームの研究。

 ネイチャー誌の報道によれば、同チームは健康なヒト受精卵に対し、最先端のゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9を適用した基礎研究を行う。受精卵が分裂していく発生の初期段階においてカギとなる遺伝子をゲノム編集で操作しながら、遺伝子の働きや胚の発達の仕組みを解明するという。同時に不妊治療の成功率向上につながる知見を得ることも目的としている。

 受精卵は不妊治療の際の体外受精で余ったものを使うが、不妊治療患者に事情を説明し、同意を得た上で提供を受ける。受精卵は研究のみが許され、治療に使うことはできない。しかも、使用期間は受精後7日目まで。細胞が最大256個にまで分裂した段階で研究は中止となり、受精卵は破壊される。

 ヒト受精卵のゲノム編集をめぐっては、2015年4月に中国の研究チームが、遺伝子に異常を持ち、そのままでは成長できない受精卵に対してCRISPR/Cas9でゲノム編集を行った事実が研究論文で明らかになり、それをきっかけとして、ヒト受精卵に対するゲノム編集の議論が世界中で巻き起こった。

 ただ、遺伝病の治療に役立つとの期待がある半面、遺伝子操作によって親の好みの容姿や体力・才能を持たせた、いわゆる「デザイナーベビー」の誕生につながりかねない、との懸念もある。生命倫理上の観点から、英国でも遺伝子を改変したヒト受精卵を子宮に戻して妊娠させることは、依然として違法行為となっている。

 それでも、受精卵のゲノム編集研究が今回認められたことで、英国内での研究および研究申請が活発化するのは確実。ほかの国でも追随する動きが出てくるものとみられる。さらには、その先にある、受精卵を対象とした医療機関でのゲノム編集活用の是非をめぐる議論に火をつけることになるかもしれない。
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
 この分野で英国は恐れを知らない先導者と言える。かつて「試験管ベビー」と言われた体外受精を世界で初めてやってのけたのも英国だし、受精卵を使うことから、米国などで社会的・宗教的な拒否反応のある胚性幹細胞(ES細胞)の研究でも先行した。エディンバラの博物館でその剥製を見たことがあるが、クローン羊の「ドリー」まで作ってしまった。  これまでのさまざまな事例でも分かるように、先端技術は破壊的なパワーを持つ。研究が暴走しないよう、研究成果が乱用されないよう歯止めをかけるのも、あるいは推進するにも、まずはドローンのように規制が必要だ。さて日本はどう出るか。

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