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「デザイン思考+モノづくり」、多摩美大のリカレント教育のユニークさ

「デザイン思考+モノづくり」、多摩美大のリカレント教育のユニークさ

TCLの1期は3カ月、毎週土曜日に講義とPBLを行う

多摩美術大学が運営する「多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム」(TCL)が、ユニークな社会人リカレント教育として注目されている。土台のデザイン思考に加え、モノづくりの身体感覚を重視するのは美大ならでは。受講後のキャリア転換や実用化検討も出ている。第7期は受講生33人で9月から始まった。

デザイン経営は課題発見型のデザイン思考を、ブランド構築やイノベーション創出につなげる経営の方法論。論理の積み重ねとは異なる、アイデアやクリエイティビティーに注目した経営モデルだ。

TCL受講生は、商社など大企業社員や公務員が多い(多摩美大提供)

TCLの1期は3カ月、毎週土曜日に講義と課題解決型学習(PBL)を行う。ユーザーの反応を見ながら、試作品として具体的に形にするリアリティーに重点を置く。eラーニングもある。最終日はグループ発表に加え、各受講生が学びを生かした今後を「宣言」。4カ月後に再び集まりその後を発表する。

この刺激により受講生は異動、部署新設、転職や大学院進学で、デザイン経営のキャリアを深めるケースが目立つ。2020年度から累計受講者数は約220人。「修了生の自主研究グループも立ち上がりつつある」(丸橋裕史特任准教授)という。

成果の一つは、スマートフォンの長時間使用を抑制するアプリと花卉(かき)ビジネスを連動させたものだ。充電によりデジタルスクリーン上に咲いた花は、長時間使用でしおれて注意を喚起する。適切な使用ならリアルの花が配達される。花卉廃棄の課題解決とつなげたサービスだ。

また個人の内省を呼び起こす文言やマークの入れ墨シールは、自身にしか見えない場所に貼り、意識を自分の中に向けることを促すプロダクト。旅の体験ツアーなど事業化検討の案件もあるという。

TCLは9割が個人参加。受講費35万円は厚生労働省の職業訓練給付制度の対象。履修証明書も発行される。

日刊工業新聞 2022年10月06日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
デザイン思考やSTEAM教育では、論理的な考え方にデザインやアートが加わる。技術と意匠の双方の魅力を持つiPhoneがよく事例に挙がるものの、なんとなく腑に落ちずにいた。が今回、美大のリカレントで「モノづくり」という言葉が出てきたことで、理工系と美術系の大いなる共通点に気づいた。「意味ある具体的なモノを作り出す」という行為が重なるのだ。工学も芸術も最初は真似から始まるが、理論を学び、プロとして優れた独創性を発揮できれば、形あるモノを通じて社会的インパクトを与えられるわけだ。この理工系やデザイン・美術系、さらにモノやサービスを扱うビジネス系などの社会人が、リカレントの場で交わる。共通点と差異点があり、互いに刺激し合う関係がプラスになるのだなと感じた。

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