「国立大学で学部生の定員が抑制されている状況を解消すべきだ」
まず国立大定員抑制なくせ
岸田文雄首相が座長の教育未来創造会議は5月、理系学生の割合を現在の35%に対し、50%を目指すと宣言した。私は情報・理工学系単科大学の学長として「国立大学で学部生の定員が抑制されている状況を解消すべきだ」と主張する。
学校基本統計によると大学の入学定員は、1970年から2020年で約64万人にほぼ倍増した。その中で理系主要分野の理学・工学の定員割合は、逆に24%から17%に減少した。私立大学が文系の定員増を進めたことが背景にある。「進学の選択肢は文系の方がたくさんありますよ」と、理系離れを後押しした状況だ。
私の元には日々、中小企業からは「1人でもよいから」、また大企業さえ「少しでも多くの」卒業生が欲しいと悲痛な声が寄せられる。製造業だけでなく小売り・サービス業もすでにデータ産業となっているためだ。産業界のデジタル変革(DX)のニーズ急伸もある。
大学教育は国の規制が大きい。国立大は近年、入学定員増が原則として認められていない。18歳人口減少の中で私立大の経営を圧迫しないようにというのが理由だ。地方創生のため広島大学など3大学でのみ定員増が、いずれも情報・理工系の計画で認められた。国として理系増を掲げる中、地方限定は疑問符が付く。一方で私立大の学長からは「経営的に考えて、理系を増やすなんてとんでもない」との声が上がる。
そこで国公私立を超えた連携を提案したい。理系人材の育成は手間もお金もかかる。先端機器を使った少人数での実験・演習が必須、教員も先端的な研究者でなくては学生に実力が付かない。そのため理系人材育成の実績が高い国立大と一部の公私立大が定員増の先頭に立ち、後に多くの私立大と連携することで50%を目指す―。そんな仕組みと財政支援はどうだろうか。
本学はトップレベルのデータサイエンス・人工知能のプログラムを計画した。通信・ロボット系、マテリアル・量子系も重要分野だが、身を削って学内のそれらの一部定員を移動させ、併せて文部科学省に定員の純増を求めた。実現は容易ではないが”サイレントマジョリティー”では行政の転換は促せない。本学から一石を投じた。
理系定員増の幅広い議論を求めたい。大学は社会の公器、ステークホルダーは日本社会なのだから。
【略歴】たの・しゅんいち 83年(昭58)東工大院修士修了、同年日立製作所入社。96年電通大助教授。20年から現職。博士(工学)。宮崎県出身、64歳。関連記事:政府・教育未来創造会議の提言に大学関係者とまどう、「理系を5割に」の意図は?