ニュースイッチ

日刊工業新聞をZ世代の大学教育で活用するノウハウ

学生が事前に学習して教室で議論をする「反転学習」に、リアルな印刷物教材とサイバーでのアンケート即時集計をセットで―。日本工業大学は新聞に最新の教育手法を組み合わせた、新1年生向けの授業を日刊工業新聞社と共同で行った。スマートフォンによるフィルターバブル(情報の偏向)に気づくきっかけにもなりそうだ。

まず1週間前に同社が新聞を受講者約130人に提供し、担当教員が新聞の読み方をレクチャー。「興味を持った記事」3件を選び理由も付けるリポートとした。当日、学生は飛行ロボット(ドローン)の映像伝送サービス、中国製電気自動車(EV)の日本への輸送ビジネスなど、人気上位の記事を手がけた記者のコメントや、論説委員の解説で理解を深めた。

後半は「学生が考える新聞ビジネスの活性化案」でグループワーク。「大学構内の学生の目につく場所への掲示」「大学の授業との連携」など、スマホから送られたZ世代の案を集計して議論した。筒井研多教授は「学生は自分が興味を持った案件で『自分以外の反応』を知りたがる。プロの視点は刺激が大きい」と強調した。

登壇した山本佳世子記者の振り返り

日本工業大学での連携授業は、筒井研多教授らの「新聞を使った情報収集の大切さに触れてほしい」との熱い企画立案に始まった。7月7日、「現代社会の基礎知識」の授業の1コマだ。

まず「専門紙・日刊工業新聞の読み方」を私、山本がレクチャー。なにしろ少し前まで高校生だった新1年生約130人の教養の授業だ。そのためまず、学生のSNS発信と重ねて「コミュニケーションのための情報は、役に立つかおもしろいか」と気づいてもらう話をした。

そして「メディアの電子媒体と紙媒体のメリット・デメリット」を挙げることで、スマホ以外の情報収集法に関心を向けてもらった。さらに「専門性+社会性で、理工系学生は鬼に金棒」と説明し、学部4年間を通じての理工系の専門の学びと、新聞記事などによる社会性の獲得を励ました。

次に同大が準備・配布した「興味を持った記事の集計・ランキング」と「その記事に対する学生コメント一覧」を活用。学生のコメント(感想)に対して解説し、実際に取材・執筆を行った記者からの取材裏話やメッセージを紹介した。教員には「学生は自分が関心を持ったことが、プロの視点と繋がってより考えを深められたようだ」といってもらえた。

後半のグループワークは、学生は小グループに分かれて議論した上で、PCやスマホからグループ毎にまとめを教員に提出。それを即時集計して投影するという段取りが、想像以上に短時間で手際よく進められて驚いた。「学生を刺激するために、意識的にスピーディーな展開にしている」のだそうだ。また、新聞の活性化という「問題点が明確で、かつ、学生と微妙に距離感がある課題」が、テーマとして適切だったようだ。

学生の感想に「業界紙の日刊工業新聞を読んでみたら、一般紙に比べて読みやすかった、おもしろかった」との複数の声があったのが意外だった。が、「学部1年生でも、理工系の学生ならそう感じるのか」と理解した。記者がやりがちな「専門用語を含めて話が複雑なのだから、読みにくい記事になっても仕方がない」という言い訳を、戒めなくてはいけないと振り返った。

また、「新聞記者から直接、質問に答えてもらうなど、普段の授業ではない機会でよかった」というストレートな感想も嬉しかった。同大が手がけた、連携授業に対する学生の評価アンケートでは、5段階のうち上二つの「良い・やや良い」が合わせて97%だった。人気のある授業で40~55%程度だということを考えると、非常に高い反応を得ることができた。

ちなみに中小企業を経営する石井宏宗サンシングループ代表は「就活の大学生が『日刊工業新聞を愛読しています』と言ったら、もう採用ですから(笑)。相当な差別化、強味となることうけ合いです!」と勧める。新聞を学生の目に留めさせ、手に触れる機会を増やすことが一つの社会教育といえそうだ。

(写真はすべて日本工大提供)

日刊工業新聞2022年7月14日記事に加筆

編集部のおすすめ