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デジタル×専門分野で産業DX、大学の高度人材育成が動き出した

「デジタルツイン」建築/スマート農業/環境・エネ分析
デジタル×専門分野で産業DX、大学の高度人材育成が動き出した

建築分野でプログラミングを身に付けた人材の活躍が期待される(プログラミングによる事例、工学院大提供)

デジタル技術と専門分野を掛け合わせ、産業デジタル変革(DX)をリードする大学の高度人材育成が動きはじめた。建築におけるリアルとサイバーの連携、スマート農業、環境・エネルギーのデータ分析・制御などだ。ソサエティー5・0の若きリーダーを、最先端機器によるDXの実験・実習を通して輩出する教育に注目が集まりそうだ。

工学院大学はリアルとサイバーを行き来する「デジタルツイン」の教育を、秋から学部1年生で始める。建物のスケールを実感する壁一面の作業空間をはじめ、リアルタイム情報とシミュレーションを連動させるのが売りだ。建築学部の山下哲郎教授は高校のプログラミング教育の必修化を踏まえ、「形状をつくり、プログラミングし、動かすことをつなげて考えられる世代」に期待をかけている。

地方大学でスマート農業が人気となる中、「農学×工学×デジタル」を掲げたのは山口大学だ。学部・大学院修士課程までつないで地域・産学官連携の教育に取り組む。

農学では気象観測やセンサーといった“デジタルファーミング”の機器や施設、データ分析基盤などを活用。工学部では工学院大と同様、デジタルツインに焦点を当てる。松野浩嗣理事は「防災や気象、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)などは農・工双方にかかる重要なテーマ」と、自治体などの期待を説明する。学生は農・工の技術を相互に学びつつ、地域の課題解決をするプロジェクト研究に進む。

業界を問わず科学的な課題解決人材のニーズが高まっているのが、カーボンニュートラルに向けた環境・エネルギー分野だ。東京都市大学は太陽光パネルやモノのインターネット(IoT)設備で、学内外の実データを分析する教育プログラムを用意した。「天候変化や需要を予測しながら、再生エネルギーのマネジメントをするといった人材を育成する」(伊坪徳宏環境学部教授)ことを掲げている。

これら3例は文部科学省の2021年度補正事業で、設備導入の予算支援を受けて実現したものだ。次の公募予定は残念ながらないが、「各大学には社会変化に応じた教育を意識し、設備更新の機会で思案してほしい」(文科省・高等教育局専門教育課)としている。

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日刊工業新聞2022年6月30日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
高額の最新鋭機器を多数、使うものの、これは研究用ではなくて教育用だ。去年の文科省の概算要求時には「実験・実習設備のDX化」と表現していた。研究用機器は競争的研究資金で購入可能だが、教育用は一般に財源が厳しい。それだけにこの事業(結局、補正予算で実施となった)で採択された機関はラッキーだ。採択全39件のうち旧帝大はほとんど入っておらず、高専が7件などという点も、研究支援事業との違いを感じる。それぞれの地域や産業界で注目を集める展開を見せてほしい。

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