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日大の林真理子理事長選出は「仕方なく」か「最適」か

前理事長の脱税事件などの不祥事を受け、日本大学は新体制となって再出発した。日大と関わりのなかった理事が全体の4割を占める。閉鎖した組織に一般社会の常識を持ち込み、学内外の賛同を増やしつつ前例のない改革を実現してもらいたい。

組織の内部に「適任者がいないから」とダイバーシティー(多様性)に後ろ向きな日本の他組織も参考にするべきだろう。

日大の新理事の1人は「同質のシニア男性だけの組織では、日本はもう本当にだめになる。多様な人の参加を意識的に進めることは、どうしても必要だ」と、課題山積の日大に責任ある立場で加わった理由を語る。

今回「日本大学再生会議」は答申書で「理事会に占める学外者の割合を3分の1程度以上とすべき」と提言し、日大もそう表明していた。日大から依頼を受けた弁護士や会計士、学術研究者などの団体が推薦者を選定。日大の出身者でも教職員でもない理事が22人中9人になった。ゼロだった女性理事も同様に9人と4割を占める。林真理子新理事長らの覚悟と意欲に賛同して引き受けたという。

一般に組織のダイバーシティーの議論では「適任者がいない」「候補対象の絶対数が少ない」という発言がしばしば聞かれる。しかし、それは自身の組織を閉じておくための方便である場合がある。

日大は理事長を筆頭に大学経営に詳しくない理事が多い点は、確かに不安要素ではある。だが日本社会で根強い経験重視の人選だけでは日大の再生はおぼつかない。外部人材を排除していては、内部通報制度などを実現することも難しいのではないか。多様性が重視された布陣に期待したい。

林理事長は「これだけ外の力が働いているのだから『よし、内側から変えてやろう』との思いで動いてほしい」と学内に呼びかけた。理事長は学生や教職員らの声にも十分に耳を傾け、相乗効果を引き出してもらいたい。また文部科学省が取り組んでいるガバナンス(組織統治)強化に向けた私立学校法の改正も早期の実現が求められる。

日刊工業新聞2022年7月8日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大企業をはじめ大組織が、不祥事をきっかけに変革しようという時に、「その組織に疎い外部人材がトップに立つ」のは適切なことだと近年、社会はとらえている。今回の日大のケースでは、大学経営に知見のある他の候補者には皆、断られたとの話を耳にした。火中の栗を拾う覚悟を持てる、大学関係の有識者はいなかった、「私のような(大学経営の)素人を受け入れた」(林真理子理事長)のは、仕方なくの人選だった面がある。しかし林理事長は会見で、「理事長候補の一人として、と言われたとき、(卒業生の一人として)理事ならわかるが、なぜ理事長かと驚いた。でも不遜な言い方かもしれないが、それもありかなと思い直した。私は(今の日大組織に対して)しがらみがない、怖いもの知らず、決定が早い、ある程度の知名力がある。これによって、日大を変えていけるかもと思い、(引き受けることに)迷いはなかった」と、ある意味で最適の人選だと発言している。そして外部理事も複数が、理事長のその熱意や覚悟に共感し、ともに火中の栗を拾う決心をしたのだと聞いた。日本社会は失敗にうるさく、経験不足に厳しい目を向けがちだ。しかしイノベーションを絶え間なく創出する社会は、失敗を重ねて新しいものを生み出すことに前向きなものだ。新理事長・理事会の船出を暖かく見守りたい。

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