株式上場・大手と資本提携…静岡大発ベンチャーたちはなぜ活躍の場を広げられているのか

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静岡大学・浜松キャンパス

静岡大学イノベーション社会連携推進機構は、大学で生まれた”知”を生かした起業支援に力を入れている。これまで教員シーズで起業した大学発ベンチャーは37社と地方の国立大学では多い方だ。中でもエクサウィザーズ(東京都港区、旧デジタルセンセーション)、ブルックマンテクノロジ(浜松市中区)、ANSeeN(浜松市中区)の3社は、株式上場や大手との資本提携するなど、それぞれの出口を見つけ、飛躍しようとしている。

エクサウィザーズ(デジタルセンセーション)

2017年10月、静岡大学発ベンチャーのデジタルセンセーションとAIベンチャーのエクサインテリジェンスが経営統合し、「エクサウィザーズ」が誕生した。エクサウィザーズは21年12月にマザーズ(現グロース)市場に上場を果たし、静大発ベンチャーの大きな成功例となった。

静岡大学創造科学技術大学院 竹林 洋一特任教授

デジタルセンセーションは2004年、知的クラスター創成事業の支援を受け、静岡大学の竹林洋一教授(現特任教授)が設立した。テレビジョン発祥の地である浜松市で生まれた静大発ベンチャー第1号。静岡大学の木村雅和電子工学研究所長は「静大が大学発ベンチャーに力を入れていく一番のきっっかけをつくってくれた」と感謝する。

竹林氏は東芝出身。デジタルセンセーションは”文工融合”を理念として、社会ニーズに焦点を当てたウエブ映像コンテンツとネットワークサービスに関わる研究と応用開発に注力。20年以上前からデジタル社会の将来像を描いていた。さらにデジタルセンセーション社長に就任した坂根裕静岡大学情報学部助手(当時)は、「3歳からプログラミングを始めた天才プログラマ」(竹林氏)で、現在はエクサウィザーズの技術担当取締役。竹林氏は「坂根氏の組み合わせが効果的だった」と振り返る。このコンビで次々と新しいコンテンツを生み出し、06年の浜松国際ピアノコンクールで多数のネット視聴者向けにライブ配信とオンデマンド配信サービスを提供し話題を呼んだ。市場が拡大している介護へのAI応用にも着手し、エクサインテリジェンスと経営統合後は、社会問題解決に関心の高いエンジニアや専門家が集い、ビジネス開発が加速している。

「ビッグデータを集めて顔や音声のパターン認識やロボットを高度化するAIだけではなく、多様な人の幸せをつくるAIに挑戦したい。人によって異なる個性をどう表現できるか。これからのメタバース社会では主観を扱うAIが必要になる」と竹林氏はAIの未来を語る。竹林氏は認知症を個性と捉え、エビデンスを集積して利活用する「みんなの認知症情報学会」の理事長も務める。エクサウィザースの株式上場はゴールではなく、「人間支援のためのAIを実現する」(同)ための一里塚だ。

ブルックマンテクノロジ

「3Dセンサー事業を強化して次のステージに上がりたい」。ブルックマンテクノロジの青山聡社長は、凸版印刷との資本提携の狙いをこう語る。2021年3月に凸版印刷がブルックマンテクノロジの株式の約90%を取得した。

ブルックマンテクノロジ 青山聡社長

ブルックマンテクノロジはイメージセンサー研究の第1人者である静岡大学の川人祥二教授の研究をベースとする超高速、超高感度、超解像度イメージセンサーが主力。2021年の東京オリンピック・パラリンピックではNHKと共同開発した8Kスーパーハイビジョン用イメージセンサーが注目された。

3Dセンサー事業に本格的に力を入れ始めたのは約3年前。スマートフォンやゲーム機の高機能化、自律自走ロボットなどの普及に伴い、周辺情報を3次元的に収集できる3Dセンサーの潜在市場は大きい。同社の3Dセンサーは、ToF(Time of Flight)方式を採用。ほぼリアルタイムで広い範囲の距離情報を瞬時に取得する高速応答性に優位性がある。

しかし、3Dセンサー事業強化に舵を切ったものの、新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足など逆風が強まり成長曲線は伸び悩んだ。将来に向けさらなる資金調達が必要となる中、凸版印刷への子会社化を決断した。国内外の複数社が候補にあがったが、「会社を大事にしてくれ、進む方向が同じだったのが決め手だった」(青山社長)という。

結果としてこの決断によりアクセルを踏み続けることができ、22年3月期は売上高に占める3Dセンサーの比率が大きく伸びた。

さらに両社は連携して次世代3Dセンサーの開発に着手した。このほど試作品を完成。今後は、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、ユーザーインターフェースなど一般消費者に近い領域だけでなく、ロボットや低速モビリティ向けを注力分野として提案していく。「具体的な成果が現れるのは2年後」(同)と見て、販売・供給体制を整えていく。

起業当初は新規株式公開(IPO)を目指したが、「凸版印刷との共創で、チャンスと時間を買う」(同)道を選択した。変革に挑戦する老舗の大手総合印刷会社と世界最先端のイメージセンサー技術を持つ大学発ベンチャーの異色のタッグで、3Dセンシング業界へ競争力ある製品を提供していく。

ANSeeN

ANSeeN(浜松市中区)の社名は英語の「unseen(見えない)」と日本語の「安心」を掛け合わせた造語。青木徹静岡大教授(同社CTO)が研究する技術をベースに2011年に大学発ベンチャーとして誕生した。超高解像度X線イメージセンサー技術により世界初となるX線カラーイメージングを実現するTlBr素子を採用したイメージセンサーを開発。社名の通り、高解像度、高感度を両立し従来、見えなかったものを可視化する。 

ANSeeN 小池昭史社長

「セキュリティーや電気自動車分野への応用に将来性がある」と小池昭史社長はコア技術の将来性に期待する。同社のCdTe(テルル化カドミウム)を組み込んだ独自のX線センサーは少ない放射量でもシャープな画像化が可能。空港の荷物検査などで色や材料など従来より正確で確定的な検査ができる。

19年にはJR東日本のスタートアップ支援事業のコンテストで、「新幹線自動改札での手荷物検査装置」を提案し、最優秀賞を受賞した。セキュリティ強化が求められる中、乗客が改札を通るわずか数秒で、持ち込み禁止荷物などを判別できる。

製造現場の検査工程の自動化への応用も期待される。現在はカメラ式が主流だが、X線を使えば照度など外部環境に影響されない。ワークの形状や表面加工状態も関係なく、素材の中身や内部構造がわかる。電子部品欠陥の自動判別などにも適しており、「電気自動車(EV)化は追い風」(同)としている。

ただ、技術の特殊性もあり量産化は難航している。「出口として自社で工場を建設するか、他社と連携するか。1、2年内に決めたい」(同)としている。

一方、「大学発ベンチャーというだけでアドバンテージはある」(同)と起業からの道のりを振り返る。地域の金融機関の協力やマッチングなどの側面的なサポートや研究室の高額な装置を使えるメリットもある。当面の目標は数年内の新規株式公開(IPO)。「IPOすることで医療分野にも提案しやすくなる」(同)と次の段階へ駒を進める。

 

広域連携でイノベーション拠点に

静大浜松キャンパスがある浜松市は2020年に名古屋市とともに内閣府から「スタートアップ・エコシステム・グローバル拠点都市」に認定された。21年には大学発新産業創出プログラム(START)大学・エコシステム推進型スタートアップ・エコシステム形成支援に採択され、プラットフォーム名称「Tongali(トンガリ)」を始動。名古屋大学など17大学で、「ものづくり産業集積地としての基盤を活かした”ディープテックイノベーション”のグローバル拠点形成」を掲げ、文字通り”トンガった”未来につながる技術の発掘と人材育成を目指している。

静大は浜松キャンパスでは工学部や情報学部、電子工学研究所、静岡キャンパスに農学部、理学部やグリーン科学技術研究所などがあり研究シーズが豊富。静岡大学イノベーション社会連携推進機構産学連携推進部門特任教授でコーディネータの鈴木俊充氏は、「研究が研究で終わらず、社会実装してイノベーションを起こすような取り組みにチャレンジして欲しい」と期待する。国の施策も含めスタートアップ創出には追い風が吹いている。一方で、「研究者は研究の中にいると広い世界が見え難く、有望な研究がニーズに届いていない可能性がある。静大が今以上にアピアランスを高め、研究シーズを含めた静大の強みを知らしめる活動が必要」とし、静大ベンチャーとの相互補完関係が生まれることに期待する。

地域でやらまいか

静岡大学や浜松医科大学などが主催、地域の企業も協力して開催している「MATH(マス)やらまいか」は、小学生の子どもたちが算数の競技を通して着眼や分析力、思考力を養う大会だ。地元小学生の理系の飛び抜けた才能を育てることを狙いに、10年以上続けている。大会では大学の学長らも参加し、子どもらと本気で競う。スポーツのように実況中継もあって応援にも熱が入る。静岡大学には産学連携やイノベーション推進に積極的、かつ柔軟に取り組むカルチャーが醸成されている。広域連携で東京や名古屋の大学から刺激を受けながら、地方大学の良さを生かし輝く道を模索していく。

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