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東大が1000億円の独自基金、大学債“2本目”が示すモノ

東京大学は国立大学の基金制度整備を国に求め、1000億円の法定基金(仮称)を創設する。運用原資の範囲を従来の寄付金限定でなく、大型産学連携や大学発ベンチャーの上場、特許などの収入に拡大。大規模な基金の運用益を財務強化に充てる。また、第2号となる大学債100億円を12月にも発行。世界トップクラスの海外大学と競うため、政府資金以外で先行投資を行い、自立した機動的な大学経営の実現を目指す。

藤井輝夫総長が東大の理念と方向性を示す基本方針とともに、基金の創設を1日発表する。新たな大学モデル「公共を担う組織体」の実現に向け、教育・研究を支える経営力を強化する。

国立大は現在、寄付金を原資とする余裕金の運用が可能。東大も「東京大学基金」による440億円の長期資産運用を行っている。すでに規制緩和されたハイリスク投資では、このうちの110億円を投じ、リターン3・5%を掲げている。

今回、国立大学法人法による正規の基金制度の構築を国に求め、多様な外部資金収入を自己資本とする法定基金を中長期で創設する。東大はこれまでに研究活動以外にも使える産学協創(大型で包括的な産学連携)の収入を1企業から10年間で100億―200億円を得た実績を持つ。

また、大学債の発行は東大の要望で規制緩和され、国内大学で第1号として2020年10月に同大が200億円分を発行した。新たに「100億円で償還期間40年」の2号で文部科学省の認可を得る見込みだ。

資金用途は施設整備に限られ、今回の基本方針で重視する「ダイバーシティー&インクルージョン」や脱炭素化関連で活用。国には今後、職員の採用などの用途容認も求める。

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日刊工業新聞2021年10月1日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
「公共を担う組織」という言葉は、昨秋に藤井新総長が決まったころから耳にしていた。が、「大学が公共の豊かさを実現するために、教育や研究で新たな試みができるよう活動規模を大きくする必要がある。そのために産学・社会連携による外部資金を獲得し、経営として資産運用も過度に恐れずに取り組んでいく」という意味だと今回、理解が進んだ。利益追求の会社でもなく、規模やパワーの増強を好まない(とくに日本の)NPOでもない。これまでにないモデルを大学で実現するというわけだ。大学債は大阪大学、東京工業大学なども関心を示していたが、2番手の大学が出るより先に、東大が二つ目を出すという勢い(と、償還のあてを確保できる財務体制)に、改めて舌を巻いた。

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