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データ駆動型研究を推進。情報学研が6年かけて整備する「次世代学術研究プラットフォーム」の全貌

国立情報学研究所が2022―27年度に整備する「次世代学術研究プラットフォーム」の内容が明らかになった。大学・国立研究開発法人の研究データ管理・活用の基盤整備と超高速ネットワーク基盤「SINET(サイネット)5」の後継を連動させる。理論、実験、シミュレーションに続く「データ駆動型研究」が進み、生命科学や防災、IoT(モノのインターネット)などの研究力強化と融合が期待できる。想定経費は6年間で約750億円。文部科学省が精査し、22年度予算の概算要求に盛り込む。

情報学研のSINET5は、スーパーコンピューターや大型放射光施設などのビッグデータ(大量データ)、国立大学病院の医療情報、研究論文データベース(DB)などを扱う学術情報基盤で、約1000の大学・研究機関と共同研究先の企業が利用する。

大学共同利用機関法人の21年度からの中期目標期間に合わせ、後継となるSINET6のネットワーク基盤と、動きだした研究データ基盤の融合で高度化を図る。

研究データ基盤で構築する機能は、強固なセキュリティーに加え、データ解析処理の再現性や必要なDBを探し出す仕組みなどとなる。情報学研が主体となって、約15の大学・国立研究開発法人が参加する委員会で具体策を議論する。

データ駆動型研究は社会のあらゆる活動データを解析する研究で社会変革の可能性を秘めているが、企業データなど秘匿性が高く公開しづらい。そこで材料や生命科学で活用が進む学術研究で、先に課題解決と公開メリットを明示することも狙いとなる。

検証可能な研究データの管理・公開は研究不正防止や社会に開かれたオープンサイエンスの点から求められている。6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で採択された研究協約や、21年度からの第6期科学技術・イノベーション基本計画、統合イノベーション戦略2021でもその重要性が強調されている。

日刊工業新聞2021年8月23日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
研究データは従来、個々の研究者が囲い込んでいたり、一部の学術コミュニティーでしか目にしないデータベースだったりしていた。が、他の研究者も(時に一般人も)活用できる「オープンサイエンス」の形へシフトするのが世界の流れだ。どの大学・研究機関も手がけるべき事案となりつつあるが、現場ではまだ認識が深まっていない印象だ。また推進には、安全性やデータ管理の仕組み構築、支援人材など課題が多いため、これらの解決を情報学研(NII)がリードするという形だ。NIIのネットワーク基盤のSINETは、大型研究のビッグデータやクラウドデータなどの扱いが進んでいる点も大きい。両方の掛け合わせで新たな進展を導く、NIIにしかできない事業といえるだろう。

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