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若手理系女性から中堅へ、苦しい時代が正念場

連載・理系女性のキャリア-文系女性、理系男性との違い #03

さあ連載のハイライト、キャリア構築にもっとも大事な30、40代の若手から中堅にかけての回になりました。研究者の場合は、博士課程学生もここに含まれます。所属組織での信頼感を高めると同時に、個性を確立していく大切な期間です。仕事のおもしろさを感じる一方、悩みや壁に直面し、苦しさも覚えるようになるでしょう。この期間の捉え方をみていきます。

一般的に男性は、上司の指示に従いながら組織のより上を目指し、仲間と競いながら自分一人の力を試すことを楽しめる人が少なくないと聞きます。一方で女性は、助言を受けたり与えたり、人と共感しあうことに喜びを感じ、小さなグループで活動するのを好む傾向があるようです。そのため、女性は若いうちは伸び伸びと力を発揮できるのに、「男社会」だった伝統的な組織でゼネラリストとして昇進していく30、40代に、しばしばとまどいが生じるようです。

それでも文系女性であればそれなりに人数がいますので、悩みを分かち合い、一緒に頑張る同性の仲間がいることでしょう。同時に、同じ文系女性でも「高い業績を残すことにワクワクする人もいれば、お給料がもらえれば十分という人もいる」し、「優しい人もいれば意地悪な人もいる」ことも、職場の体験から理解していることでしょう。

ところが理系は専門性の向上や個性の確立をより大事にしているスペシャリストです。加えて理系女性は少数派ですので、多様な人間模様に(ポスト競争などドロドロしたものを含めて)気づきにくいのではないでしょうか。

科学技術・大学分野を担当する記者の私もそうでした。理系の素養を生かした文系的な仕事をしていますが、1990年の入社当時、他に理系女性の記者はいませんでした。その後は当社も一般社会と同様に、理系や女性の活躍が広がって、年下の理系女性記者5人と接する経験をしました。そしてようやく、「文理に男女、職種に職場など同じ要素が多いグループでも、自分と同じだったり違ったりさまざまだな」と実感したのです。

いろいろな人がいる、それは当たり前のことですよね。でも例えば男性ばかりの会議において女性が一人だけいると、「女性の場合はどうですかね」と、その人が全女性を代表しているかのような質問が出ませんか? 少数派の中の多様性については、当事者も周囲も思いが至らない、ということなのでしょう。これは少数派の落とし穴の一つです。

私は30歳前後に、科学技術分野の担当から企業担当の記者に異動となり、それまでとは違う仕事の仕方に悩みました。さらに「どのように解決していったらいいのか、分からない」ということ自体に対するとまどいを、かなり長い間、抱えることになってしまいました。なぜならば私は、「信頼できる上司や先輩(当時は男性のみ)に相談すれば、ピタッと的確な答えを出してくれ、それに従えばいいはずだ」と当時、思っていたのです。きっと30歳まで優等生の”女の子”のままで来てしまったから、なのでしょう。もしかしたら「自然科学の世界の解は一つである」と考える理系だったせいも、あるかもしれません。

ところが頼れるはずの相手はだれも、ピタッとした解を与えてくれず、疑問がとけませんでした。ある先輩には「山本さん、仕事のあれこれを聞いてまわるのはもう止めた方がいい。女性だから皆、親切に教えてくれるだろうけれど、いつまでもそんなことをしていちゃ仕様がないよ」といわれ、ショックを受けたことがありました。それでもなお、なぜいけないのか理解できずにいました。

ようやく腑に落ちたのはなんと、50歳になったころでした。つまり「助言はワン・オブ・ゼムにすぎない」「その人のその状況に合ったものはトライ・アンド・エラー」であり結局、「自分で苦しみながら壁を乗り越えていくしかない」ということなのです。プロフェッショナル、つまり優れた職業人になるためには「白馬の王子様が救ってくれるのを待っている」のではなく、「自分で馬を駆って荒野に出て行く」意気込みが、欠かせない。そのためには周囲の評判を気にして落ち込んでいるのでなく、「だれがどう言おうとこれが正しい」と自信を持って踏み出す勇気も必要です。そういったことを意識的に、身に付けていかなくてはいけないのです。

加えてワーク・ライフ・バランスの上で、女性は育児の主担当となることが多く多忙です。ライフに重点を置く期間があるのは長い人生、決しておかしくはありませんが、早いうちにワークにエネルギーを投入できる状況に戻さなくては、どうしても道は遠のいてしまいます。幸い理系はスペシャリストとして、テレワーク率が高いなど仕事も調整しやすい面があります。ゼネラリストの仕事では「やっぱり職場で全員が顔を合わせなくちゃね」となるとしても、「ソフト開発やデータ解析なら、自宅の方がはかどる」という傾向があるでしょう。頑張りがいがある、はずです。30、40代、若手から中堅にかけては”人生の夏”。周囲の助けを借りながらも、「自分で道を切り開く」意識を強く持って、実りの秋に向かっていってほしいと思います。

連載・理系女性のキャリア-文系女性、理系男性との違い

#01 理系女性に共通して潜むキャリア構築の落とし穴
 #02 大企業の上級職に理系女性はこんなにいる!
 #03 若手理系女性から中堅へ、苦しい時代が正念場

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