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大企業の上級職に理系女性はこんなにいる!

連載・理系女性のキャリア-文系女性、理系男性との違い #02

夏本番。今年はコロナ禍に東京オリンピックという特別な年ですが、「夏は毎年、これ!」という定番がある人は多いことでしょう。日刊工業新聞社で私が所属する編集局科学技術部の場合は、30年以上の歴史がある「研究開発アンケート」がその一つです。東証1部上場など日本を代表する研究開発型企業への調査で、質問項目の半分ほどは毎年、更新しています。1年前の2020年夏に初めて、私の提案で導入したテーマが「理系女性」でした。そして出てきた結果に私は驚きました。「大企業の上級職に、理系女性はこんなにいるのか!」と。

質問は「研究職または技術職から実現した最も高い女性の上級職のクラスは何ですか」というものでした。その結果、有効回答217社のうち上から順に「役員クラス」が18.4%で、「部長級」が45.6%。「課長級」は25.8%、「主任級」は6%。「上級職はいない」は4.2%でした。

どうでしょうか? 私は「大企業の女性役員が続々と誕生しているけれど、理系×女性×役員となると、そうはいないはず」と思っていました。それが「2割弱の企業にいる」という結果だったのです。今の自然科学系の学生の女性比率は、学部で3割ほど、大学院修士で2割ほど。役員にかかる上の年代はこれらよりずっと少ないことを考えると、役員輩出率はかなり高いといえるでしょう。もちろん業種による違いはあるのですが、それでも部長級も全体の約半分の企業にいる、というのも心強く思いました。

【独自アンケート】コロナ禍で変わる企業の研究開発。投資額・働き方・女性採用…

さらに私は、具体的な理系女性リーダーの紹介記事を昨夏に執筆しました。一つは大日本印刷や東京ガス、コーセーで執行役員(当時)の50代の3人の連載です。1986年施行の男女雇用機会均等法の1期生世代で、同年代の私は共感する部分が多くありました。もう一つは、より実績を積んだJ-win理事長(元日本IBM専務)、お茶の水女子大学学長(当時)、上場大学発ベンチャー社長の70歳前後の3人です。

元日本IBM専務・大学学長・ベンチャー社長…理系女性リーダーの条件を考える

このより年長の3人の企画では、高い視点から「企業や大学のリーダーが理系女性の場合に得られる利点」を語ってもらいました。取材時には先輩方の時代、自分自身が育った頃、そして今-と社会状況の大きな変化を、改めて意識しました。

ここで私は気づきました。以前から「学生などの若い人は、自分とあまり年が離れていない世代の話を好む」と聞いていましたが、それは「年長で社会で活躍している女性はみな、超優秀で超パワフルで、信じられな~い。今の若手・中堅には、ちっとも参考にならないよね」という意味なのだ、と。

私でさえ同世代と、20歳ほど上の世代との間のギャップを感じるのですから、年齢差が開くにつれてそれが増幅されてしまうのでしょう。気をつけなくては、”世代間の断絶”につながってしまう、と慌てたのです。

そこで振り返って思ったのは、「86年施行の男女雇用機会均等法と、92年施行の育児休業法による変化を押さえることが重要だ」ということでした。まず均等法前は採用段階から、「うちは大卒女子を採用しないのでね」「親元からの通勤ならまだしも、下宿だなんて」といった差別が普通のことでした。年長女性は文系、理系問わず国際派が目立ちますが、それは「国内で一流といわれた組織は、優れた女性を採用する気などなかった(結婚退職する補助的な職の女性だけでよかった)ため」といえるでしょう。

そして育休法ができる前は、産前産後の産休だけ(3カ月ほど)でした。職場に嫌な顔をされないように、出産直前まで働いている人も少なくありませんでした。頑強でない人などはすぐに脱落、つまり退職となってしまいます。ですから大変な能力と努力と運に恵まれた人しか、キャリア継続などできなかったのです。まして超少数派の理系女性であればなおさらです。某トップクラスの理工系大学で育った70歳代の男性元教授の話では、「当時は1学年750人に、女子学生は2人だけ」だったそうです。女性比率はわずか0.3%だったのですよ!

告白しますと私は、「取材先の年長女性は皆、性格がきつくてついていけない面があるなあ」と以前、思っていました。ですが、キャリア構築の大変な苦労に思い至れば、標準的な人より強い面を持っているのは当然です。そう気づいてからは見る目が変わりました。何より、どの世代の女性にしても今、仕事にやりがいを感じられるのは、先輩女性らが茨の道を切り開いてくれたおかげなのです。そう考えると年長女性に対する苦手意識など、どこかへ飛んでいってしまいませんか? 

社会をよりよい形に変革していく上で、同じ志を持つ人同士の連携は大切です。理系女性という比較的、顔が互いに見えやすい少数派の同志なのに、世代間の断絶があるのでは、もったいないことです。「均等法に育休法、先輩方が頑張ってくださってありがとうございます。これだけ仕事のしやすい環境にしてもらったのだから、弱音を吐いてはいられません。そして私たちも、さらに下の世代の未来を考えていきますよ!」。そんな気持ちを多くの人に持ってもらいたいと願っています。

連載・理系女性のキャリア-文系女性、理系男性との違い

#01 理系女性に共通して潜むキャリア構築の落とし穴
 #02 大企業の上級職に理系女性はこんなにいる!

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