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高出力・長寿命の蓄電デバイス「LIC」、カーボンニュートラルへ飛躍の時

業界の先駆者「武蔵エナジーソリューションズ」が提案を加速
高出力・長寿命の蓄電デバイス「LIC」、カーボンニュートラルへ飛躍の時

山梨県北杜市にある武蔵エナジーソリューションズの本社

菅義偉首相が表明した「2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出を実質ゼロ)」。その実現に向け飛躍が期待される蓄電デバイスがある。高出力や長寿命を特長に持つ「リチウムイオンキャパシタ(LIC)」だ。これまで容量に優位性を持つリチウムイオン電池(LIB)の陰に隠れていたが、自動車の電動化や再生可能エネルギー活用の促進が求められる社会で、電気のため方や使い方を最適化できる機能に光が当たり始めた。

武蔵エナジーソリューションズ(旧JMエナジー・山梨県北杜市)は、そんなLICの量産工場を世界に先駆けて2008年に稼働したパイオニアだ。20年4月には四輪車・二輪車向け部品の開発・製造・販売を主力とする武蔵精密工業(愛知県豊橋市)の傘下に入り、同11月には社名を改めてグループの新規事業の担い手として再スタートを切った。持続可能な社会と、武蔵精密工業の未来を切り開くべくLIC市場の開拓を加速させている。

武蔵エナジーソリューションズが提供するLICの角形セル
リチウムイオンキャパシタ(LIC):正極材料に活性炭、負極材料には炭素を利用したキャパシタ。正極は電気二重層を形成して物理的な作用で充放電するのに対し、負極はリチウムの化学反応によって充放電する。LIBに比べて容量は小さいが、出力密度が高く高速の充放電が可能。電気二重層キャパシタ(EDLC)に比べて大容量化ができる。

燃料電池車に引き合い

「LICほど人に夢を見させるデバイスはない」―。武蔵エナジーソリューションズの髙橋航史社長は、LICの可能性の高さをそう表現する。

LICは急速な充放電が可能で、発火リスクは少なく長寿命で劣化しにくい。特に長寿命はメンテナンスレスを実現できるため、管理コストの削減はもちろん、循環型経済における環境負荷の低減といった課題を解決できる。持続可能な社会の実現に向けて、多くの関係者がLICに夢を見るゆえんだ。

今後の市場確立が期待される中で、武蔵エナジーソリューションズはLICの特性が生きる用途を見いだしつつ、具体的な需要の掘り起こしに挑んでいる。

その一つが、究極のエコカーと言われ、今後の普及が期待される「燃料電池車」だ。燃料電池は定格でエネルギーを出し続けるのは得意だが、エネルギーの回生ができず急激な出力変動への追従は不得手で、頻繁な出力変動は劣化を招く。LICの採用によりそうした弱点を補える。減速時の回生エネルギーを蓄電し、走行開始加速時にアシストをおこないエネルギー利用を効率化する。

実際に商用車での利用を中心に海外メーカーから引き合いは強いという。燃料電池車は国内でも普及が期待されており、その需要も狙う。また、回生エネルギーによる出力補助という用途では、燃料電池フォークリフトや電動バイクでの活用も有望視する。

時速100kmまで3秒で加速する燃料電池レーシングカーにも、LICの特性が注目され採用された

別の革新的技術との組み合わせ

定置型では、再生可能エネルギーの安定化用途が大きなターゲットになる。太陽光や風力など自然エネルギーによる発電は出力変動が大きく、大量に導入すると電力系統が不安定になる懸念がある。LICはその短周期変動を吸収できる。合わせて、災害時の予備電源としての需要も見込む。武蔵エナジーソリューションズは、蓄電池では出力が不足する給水装置の動力としてLICを活用する実証実験を福島県の福祉施設で予定している。

「生活インフラのレジリエンスを確保し、非常時でも安心安全に暮らしていただける街づくりに貢献する」(髙橋社長)。

別の革新的な技術との連携による新規市場も狙う。その一つが24時間稼働する「RGV(有軌道無人搬送台車)」や「AGV(無人搬送車)」。非接触の充電システムとの組み合わせにより、走りながら充電できる移動体の可能性を模索している。

グループ会社のMusashi AIが開発しているSDV(Self Driving Vehicles)

一方、新しい用途を開拓していく上で性能の進化も欠かせない。特に容量の拡大は、使い勝手の広がりに直結する。武蔵エナジーソリューションズは、現状4100ファラド(F)の容量をさらに高容量化する目標を掲げ、技術開発を進めている。髙橋社長は「今までにない容量帯を期待する顧客は多い。ブレークスルーを起こしたい」と意気込む。

必要不可欠な存在になる

武蔵精密工業が旧JMエナジーを子会社化した背景には、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などによって起きる第四次産業革命を好機にする狙いがあった。自動車業界は100年に1度の変革期とされ、電動化が迫られる中で、それに対応した新たなコア商品の開発は当然進めるが、さらなる成長を目指す上で新規事業の挑戦も必須だ。そこで、着目した一つがLICだった。

「(JMエナジー子会社化の背景として)再生可能エネルギーの普及に伴うLIC需要の拡大を見込んだ。今後のブレークスルーの可能性も高いと考えた。モビリティーの電動化が進む中で蓄電デバイスの知見を持っておく重要性も意識した」。

一方、武蔵精密工業にとってLIC事業の挑戦は、収益を拡大させる手段にとどまらない。同社の大塚浩史社長は新型コロナウイルス感染拡大を経て、社会からその存在を必要とされる企業「エッセンシャルカンパニー」を目指す思いを新たにした。そこで、国連の持続可能な開発目標(SDGs)が示す17のゴールを掘り下げ、経営上の重要課題を特定した。その実現に向けた具体的な取り組みとして「サステナブルなエネルギーシステムの構築」を掲げた。武蔵エナジーソリューションズのLIC事業はその重責を担うというわけだ。

LICはこれから確たる市場を作っていく段階にあり、それは一筋縄ではいかない。それでも髙橋社長は確かな未来を見据える。

「LICでしかできない領域は確実にある。それを開拓して、社会に必要不可欠な存在になりたい。必ず実現する」。

武蔵エナジーソリューションズの情報はこちら
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 日時:3月3―5日
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