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遠隔・自動化広がる研究機器。コロナ対応へ大学各所で購入の気炎上がる

遠隔・自動化広がる研究機器。コロナ対応へ大学各所で購入の気炎上がる

富山高等専門学校との間で、走査型電子顕微鏡の遠隔操作を実施(長岡技科大提供)

大学などの研究基盤と位置付けられる設備や計測分析機器を、内外で共同利用する「機器共用システム」。装置をフル活用して予算不足をカバーするのが狙いだったが、新型コロナウイルス感染症の対応で遠隔化・自動化の機能が加わって、ブラッシュアップされている。文部科学省が予算を確保して後押しし、共同研究や大学のデジタル変革(DX)の推進による研究力強化につながると注目されている。(編集委員・山本佳世子)

共用推進で研究力強化 利便性と情報の安全両立

機器の共用は、競争的資金を獲得した教員が購入し、後に活用しきれなくなった機器を、分析室などに集約して一元管理して、共同利用を図るものだ。所有する研究室・部局も、プロジェクト終了後の装置維持のコストや支援スタッフの確保が厳しいからだ。

組織としての装置購入予算は乏しいのに「特に国立大学では、高額の機器が点在し十分に使われていない」(文科省科学技術・学術政策局の研究開発基盤課)。そのため文科省はまず学部学科単位で、次いで学内で、さらに地域などで融通し合うシステム導入を近年、推進してきた。

遠隔化のイメージは、これらの機器に学内外から通信網で接続し、手元のパソコンで機器の操作やデータ取得、画像撮影などをする。

試料セッティングや画像・データ転送は、機器側にいる技術職員など支援スタッフに頼むが、操作の中心は各地の研究者だ。

共同研究など通常は研究者同志が顔を合わせて議論することが重要で、時間と交通費をかけて行き来するのが一般的だ。そのため新型コロナ拡大までは、遠隔利用のニーズはさほど高くなかった。

一方、自動化は研究効率化が目的で別に進んでいた。化学合成ロボットなら、試薬を混ぜる手順を指示すれば、条件を少しずつ変えた大量の実験を行える。微量の溶液試料を一度に数十サンプル吸い取るといった、人では難しい操作も可能なのが魅力だ。

これらが新型コロナでテレワークや3密回避を求められる中で結びついた。ポイントの一つはDX全般と同様、使いやすさと情報セキュリティーの両立だ。各大学で強みの機器の更新に合わせた高機能装置の導入や、後付け機器による高度化などが新型コロナ対応の予算で進展中だ。

最高クラスのNMRに接続 産学連携で難試料対応

化学分析で日常的に使う一方、時に最高クラスの機器も必要となるのが核磁気共鳴装置(NMR)だ。全学で34台の共用NMRを持つ大阪大学は、学内はローカルネットワークで、分析室にいなくても長時間や連続の測定ができるシステムを導入。学外はインターネット経由だが、学内外のアクセスをスイッチングハブで切り替え、外部攻撃を受けてもデータ貯蔵部につながらないようにした。

また東京都昭島市の日本電子が持つ世界最高クラスのNMRに接続し、長時間の遠隔利用で貴重なデータを取得するのに成功した。以前から連携する大阪市立大学、奈良工業高等専門学校との間で、測定の難しい試料は「阪大そして日本電子へ」と、「かかりつけ医から大学病院へ」つなぐようにレベルを上げて対応する計画だ。

阪大の科学機器リノベーション・工作支援センターの古谷浩志副センター長は「さらに大阪市大の電子スピン共鳴装置(ESR)、奈良高専の走査電子顕微鏡(SEM)という強みの機器で相互の遠隔利用が進むだろう」とみる。

電子顕微鏡を中心に産学連携で活動するのは長岡技術科学大学だ。日立ハイテクや日本電子など機器メーカー、大学の機器を民間利用する北越コーポレーションの研究所(新潟県長岡市)などと新システムに取り組む。

関わりの深い全国の国立高専で潜在ニーズが見込まれ、まず7高専でピント合わせや倍率転換がしやすい操作パネルを設置。同大分析計測センターの斉藤信雄副センター長は「将来は各高専周辺の企業で使えるようにしたい」と夢を描く。

一方、山口大学は学長直轄組織でヒト・モノ・カネを動かす「リサーチファシリティマネジメントセンター」を新設した。戦略的に共用機器・システムのスクラップ&ビルドをする中央司令塔だ。

試料セッティングや画像・データ転送は、機器側にいる技術職員など支援スタッフに頼むが、操作の中心は各地の研究者だ(山口大提供)

技術職員も集約してマネジメントトラック、マイスタートラックの二つのキャリアパスを用意。若返りと伝承を両立する人材育成を進める。

インタビュー/山口大学理事・副学長(学術研究担当)上西研氏・コロナ禍契機、運用・管理しっかりと

―機器共用が進んでいる大学とそうでない大学の違いは。  「教員の意識の差が大きい。本学では研究機器の所属を部局に残したまま、大学が運用・管理する『所属/運用分離方式』により段階的に進めてきた。この取り組みにより、共用化のメリットを実感する教員が徐々に増えていった。しっかりとした運用・管理できる全学体制が前提で、それには技術職員の力が不可欠だ」

―機器共用に関心のなかった大学でも、新型コロナを機に遠隔化が進むでしょうか。  「すべての機器を遠隔化・自動化することはできないため、まず共用化体制を構築し、共用化された機器から遠隔化・自動化を進めることになる。そのためコロナ禍を契機とした共用化の進展は期待できる。また今後は、遠隔化・自動化された共用機器の人工知能(AI)化、ネットワーク化、クラウド化が進むだろう」

山口大学理事・副学長(学術研究担当) 上西研氏

―中国地域の国立大で連携する「中国地区バイオネット」を紹介してください。  「例えば鳥取大学がセルソーターによる細胞分離を、山口大学が次世代シーケンサーによる遺伝子解析を担当している。地域の各大学それぞれの強みを生かした機器を共有化することで、研究効率は飛躍的に高まっている」

キーワード/技術職員

大学には教員職員、事務職員と並び専門性の高い技術職員がいる。内訳は建物の設計・施工・管理の施設系と、教育研究支援の教室系がある。教室系は自然科学分野で、研究機器の管理・運営や機械・ガラス工作のプロフェッショナルとして重要な存在だ。

機器共用は独自の研究資源が限られる学内の若手や外国人、来訪する他研究機関の研究者らにも有用な仕組みだ。しかし論文や外部資金獲得で評価される教員と異なり、研究支援人材であるため評価や昇進が不明確だ。国立大学の財政難で総数抑制に加え任期制も多く、人材育成が課題となっている。

日刊工業新聞2021年1月7日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
コロナ対応の補正予算で、機器購入の公募真っ最中の今、めったにないチャンスに大学内の各所で気炎が上がっているという。金額も大きめとあって、強気の部局や研究者も散見されるようだ。しかし、まとめあげる担当部署・者は、「俺のところに先端機器を寄越せ!」という上から目線の研究者に振り回されてはいけない。立場の弱い若手を含む全学の研究力を底上げに向けて、機器共用化の意識をシッカリと持って、頑張ってほしい。

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