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政策関連データの意図的な解釈をなくせ!CSTIが期待する分析ツールとは

内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が「エビデンス(証拠)に基づく政策立案」(EBPM)のために整備したシステム「e―CSTI」が存在感をみせている。投入資金に対する論文数などビッグデータ(大量データ)を分析でき、2021年度からの第6期科学技術・イノベーション基本計画の議論の材料を提供している。各研究機関が、自ら立ち位置を見る経営分析でも期待される。(取材=編集委員・山本佳世子)

【14.5万人つなぐ】

e―CSTIで取り上げるデータは、政府が把握できる予算や個人情報になるため、国立の大学・研究開発法人と研究者が分析の中心だ。競争的資金獲得の研究者の属性がわかる「府省共通研究開発管理システム」(e―Rad)や、オランダの学術誌出版社エルゼビアの英語論文の書誌データを、研究者14万5000人の情報とつなげた大作だ。2020年春から関係府省庁、研究機関、一般向けの利用サイトを順に整備。日本全体でみた実質的な科学技術の議論ができ、より効果の高い政策が立案できる。

【話題呼んだ案件】

CSTIの会議で話題を呼んだ1案件は、研究費の種類と論文の質・量の関係だ。

論文成果は科学研究費助成事業(科研費)や運営交付金の方が、近年急増した「その他の競争的資金」より効果的だと明らかになった。

第5期基本計画の下で、政府は交付金減と競争的資金増をセットに施策を進めてきた。しかし競争的資金はイノベーション創出や実用化に向けたものが多い。結局、論文を指標とする研究力向上には貢献がいまひとつだと示す結果となった。

外部資金獲得では、企業からの共同・受託研究を各大学のデータでみる分析を行った。共同研究の契約数を横軸、平均契約額を縦軸に各大学をプロット。1次関数の直線を引くと、大規模大学は線の上部に位置し、金額の大型化が実現していると確認された。

一方、産学連携マネジャーなど共同研究費獲得に要した人件費を横軸、平均件数を縦軸にプロットすると、明確な相関が見られなかった。

【強さ・弱さ把握】

これらのデータを使うと他と比較した各大学の強さ、弱さが把握できる。「例えば地方大学なら件数当たりの金額は小さくて構わないが、人件費当たりの件数は高くして、地域ニーズを細かく拾って社会貢献するという戦略が立てられる」(内閣府担当者)という。マクロからミクロまで切り口を変えることで、e―CSTIの実力がさらに明らかになってきそうだ。

関連記事:ビッグデータ解析でわかった「研究力」と「科研費・交付金」の関係

日刊工業新聞2020年12月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
「エビデンス(証拠)に基づく政策立案」(EBPM)を政府関係者は近年、口にする。というのはこれまでは、実現したいプランにあったデータを探してきて、意図的に対話相手に指し示すことが、少なくなかったためだ。企業をはじめ、一般社会においてもそうだろう。それを防ぐためにまず、ビッグデータを集め(偏りがなくなる)、それをオープンにする(ずるいデータ活用でないか周囲がチェックできる)ということが重要だ。e-CSTIはその具体的なツールであり、大勢が活用し、様々な切り口での議論につなげてほしい。

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