人材育成に影、オンライン化で失われるモノ
オンラインによるサイバーの活動が増える中、人材育成では「リアル社会での失敗経験の衝撃」が薄まってしまうことが心配だ。学生や若手には、効率を棚上げしてでも真の体験を用意することが必要だ。
ある理工系大学で、前期のオンライン授業のノウハウを伝え合うシンポジウムに出席した。自身も学生時代に実験系の学びをしたことから、シミュレーション(模擬実験)と実験に興味を持った。
機械作動の制御を適切なパラメーター設定で行うシミュレーション演習は、各学生の自宅のコンピューターを通じた操作で違和感がなかった。新型コロナウイルス感染が収まっても、このままいけると感じた。
対して通常の実験は装置や回路のセット、反応過程などは教員による撮影動画となり、学生は送られた数値を解析してのリポートだった。実験は自ら手を動かす経験が欠かせないため、多くの大学で後期は対面授業の努力をしているという。リアルな体験が避けて通れない活動といえる。
二つの授業例から、かつての自身の大失敗を思い出した。低学年での実験で、隣のグループが手をかけてきた試料を勘違いして破棄したのだ。情けないだけの間違いだが、衝撃的なものだった。失敗体験は確かに、リアルとサイバーで相当に違ってくることだろう。
大学生のサークル活動や国際交流、就職活動、旅行も同じだ。さまざまな困難に遭遇し、それを乗り越える経験はリアルでなければできない。
アフターコロナのニューノーマル社会では、リアル一辺倒だった活動にサイバーを活用する比率が高まることは自然の流れだ。その上でなお、人材育成ではリアルの重要性を再認識すべきだろう。
日刊工業新聞2020年11月30日