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資生堂ショックを経て…子育て支援を変えるテレワーク

新型コロナウイルス感染症対応を契機とした働き方改革は、子育て中の女性の支援策に変化をもたらしそうだ。育児休業制度の定着で、もはや子育て女性は組織のごく一部メンバーではなくなっている。この問題を考える上で、性別を問わないテレワーク推進が有効だと注目される。

大学の若手研究者は研究現場から長く離れると、論文業績が目に見えて低下してしまう。そのため国は子育て女性に研究補助員を付ける予算を手配してきた。ただ、支援が終了すると元通りになりがちだった。

東北大学の大隅典子副学長(広報・共同参画担当)は「予算次第の支援は続かない。一番有効なのは男性の意識改革。その意味でテレワークは間違いなくゲームチェンジャーだ」と強調する。新型コロナでの実体験から、テレワークなら男性も仕事の生産性を落とさずに、育児・家事との両立ができると見えてきたためだ。

一方、企業では育休取得が短期利用の男性も含めて急増し、休業中の社員の仕事を通常体制でカバーする負担に悲鳴が上がる。さらに育休取得の女性はそうでない社員より実務経験が1年から数年短くなることが多い。女性の上位職を増やす人事施策の上でのジレンマになっている。

荏原の業務革新統括部でダイバーシティー経営も担当する植松暁子部長は「以前は休みを奨励していたが、キャリア継続には早期の復帰が望ましい」と説明する。テレワークの活用で、育休や短時間勤務にしなくても、子育てができる社員が今後は増えるだろう。

子育て中でもそうでなくても、女性でも男性でも、テレワークは組織員それぞれが気兼ねなく働ける環境づくりの手法で最有力候補と言えそうだ。

日刊工業新聞2020年11月2日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
育児休業者の仕事をカバーしきれなくなっての方向転換は、5年ほど前の資生堂ショック―資生堂が、子育て中の美容職社員も、遅番や土日勤務に入るよう方針を転換した出来事による―が典型だ。それでも化粧品会社ほど女性が多くない企業では、働き盛りの独身男性らのカバーが続いていた。が、他社へ転職していくのもそういった社員からで、「無理を強いるのも限界ではないか」と感じていた。それだけに、テレワークでだれもが自分の時間をコントロールできるようになり、独身男性なら学び直しの自己啓発に取り組むなど、通勤時間が浮いた分を有効活用できればよいと思う。だれかにしわ寄せをするのではなく、どのようなワーク&ライフでもそれぞれが、ハッピーな形を築けることを願 っている。

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