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研究室の開発プログラム、学生の権利関係にリスクあり

これってどうなの?著作権 大学の現場で(7)

【暗黙の了解】

大学の理系研究室では、教育研究に伴うプログラムが日常的に開発されている。例えば計測・制御機器で使用するプログラムのアップデートを、研究室メンバーが引き継ぐケースは暗黙の了解で、年度を超えたプログラムの使用や改変が研究室に許諾されている。

ここで研究室内の教員と学生の関係に絞ってリスクを検討する。はじめに、経年的に研究室内でアップデートするプログラムの権利関係である。教員が画期的なアイデアを着想。その発明思想を元にシステム設計を行い、システムを完成させるべく、教員がアルゴリズムを学生に提示して、学生はそれを元に特定のプログラム言語でソースコードを作成する。最終的に、これらのプログラムをシステムに実装してシステムが完成する。

【職務著作にならず】

知財成立の観点から見ると、教員の発明思想(特許を受ける権利)は大学の職務発明規定で職務発明となる可能性を含めて、特許出願・審査を通れば特許権として確立する。学生が作成・表現したソースコードは創作性要件を充足すれば著作物となり、学生は著作者の地位を獲得して著作者人格権と著作(財産)権が発生する。

学生は職務著作にならず、当該プログラム著作物に係る著作者の権利は学生個人に帰属する。しかし学生が慣習上存在する暗黙の合意を認識していない可能性など勘案すると、今後は契約による合意の明示化に進むべきであろう。

【知財全般を俯瞰】

2番目のリスクは研究室で学生と共に創作したプログラムを、業務上配布する際の特許権侵害リスクだ。前任校で、知能情報系研究室の学生が開発したプログラムをネット販売サイトに掲載するリスクで問い合わせがあった。

主要部分がオリジナル著作物であること、既存モジュールをどの程度組み込んでいるか、既存モジュールの著作物性判定、ソフトウエア特許を侵害する可能性などを研究室メンバーと検討。長年使われているありふれたアルゴリズムの組み合わせで、リスクは少ないと結論づけた。

一般に研究室で著作物の管理までは対応していないケースが多いと推測される。しかし、今後は著作権を含む知財全般を俯瞰(ふかん)したリスクマネジメントの意識が必要になるだろう。

◇帝京大学教授・共通教育センター長 木村友久
日刊工業新聞2020年10月8日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
通常の科学技術の成果物は特許権なのに、コンピュータープログラムは著作権となる。特許権は出願が必要ないのに、著作権は書いたその場で権利が生じる。だいぶ前になるが初めて知った時、そのこと自体が驚きだった。加えて研究室は教員と学生の立場が異なり、関係性も複雑だ。今は研究手法としてのデータ科学も広がって、プログラムを活用する研究室の分野も広がっている。それだけにトラブルを予防する意識は、研究室主宰教員にとって欠かせないものといえるだろう。

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