ニュースイッチ

コロナ禍のオンライン授業、先進3大学が掴んだ成果

コロナ禍のオンライン授業、先進3大学が掴んだ成果

オンライン授業の教材を作る簡易スタジオも用意した(早大提供)

大学のオンライン授業は今春の新型コロナウイルス感染症対応で急速に広まった。しかしどの手法を選択したかは、以前から遠隔授業の実績を積んでいた先進の大学でも違っている。授業支援システム(LMS)によるオンデマンド型を基本とした早稲田大学、リアルタイム型を重視した東京工業大学、教員が選択できるようにした電気通信大学の取り組みを振り返る。(取材=編集委員・山本佳世子)

早大/オンデマンド型 学習後の議論・発表に力

オンライン授業のうち、オンデマンド型授業に力を入れてきた大規模大学の代表格は早大だ。学生の都合のよい時間に動画や教材をダウンロードするなどで学べるため、同大グローバルエデュケーションセンターが手がける学部横断の全学科目をこの形で提供してきた。教育力の高い教員の学内表彰でも、オンライン授業枠を設定している。

さらに学生が事前にオンデマンド型で学び、その後の議論・発表に力を入れる「反転授業」も推奨してきた。それでもこれまでは手がける教員はそう多くなかった。それが新型コロナで大きく進んだ。

今回、多くの大学が活用したのが、教材などを学内サーバーで集中管理するLMSでのオンデマンド型授業だ。早大はちょうど新年度から、オープンソースのLMS「Moodle(ムードル)」に切り替え予定としていた。そのため教員研修や支援体制整備を進めており、全面的な実施もスムーズにいった。

同大は9月末の秋学期からは、座学のオンデマンド型授業と、ゼミなど演習の少人数対面(面接)授業を組み合わせる。対面で着席時の距離を1―2メートルにするのに、教室の定員を従来の4分の1にし、オンデマンド型授業にシフトした分の教室を活用する。留学生や地方の学生も多いことから、対面授業にリアルタイム型配信を併用することも検討する。

同大は春学期をオンラインで完結させることも早期に発表していた。須賀晃一副総長は「『あそこまでやらなくても』となったとしても構わない。本学は学生数も多く、いち早くメッセージを発することで学生を迷わせないことが重要だ」と強調した。

東工大/リアルタイム型 実験科目の扱いを工夫

オンデマンド型ではなく、ウェブ会議システム「ズーム」でのリアルタイム型に授業を統一したのは東工大だ。同大は留学生や受験生に大学の講義を外部アピールする「オープンコースウェア」(OCW)を10数年前から手がけており、LMSに相当する「OCW―i」で、通常の講義資料の提供や課題のやりとりをしてきた。

しかし今回はリアルタイム型に絞った理由を、水本哲弥理事・副学長は「オンデマンド型では学生が1・5倍速で視聴したり、一部を飛ばしたりしがちだからだ」と説明する。リアルタイム配信と同時に録画する授業もあり、これは「学士課程1年生や、授業が英語でわかりにくい大学院生が繰り返し利用している」(水本理事)という。

また、理工系では実験科目の扱いが大きな問題だ。今回は実験キットを送付して自宅で個々に手がけてもらう大学や、教員の実験動画を見てリポート提出する大学もあった。東工大はお盆過ぎからの夏休み期間に、対面で実施する。1―3年生はこれを機にキャンパスへ出向く。10月からはリアルタイム型オンライン講義と、対面の実験や実習と、学生の移動時間を加味した時間割を考えている。

一方、電通大は授業手法を全学同一に縛らず、LMSやウェブ会議システムのほか、外部クラウドサービス「グーグルドライブ」など5タイプから選べるようにした。ITスキルの高い教員らがすでに多様なツールを使っていたためだが、ITが苦手な教員は資料添付メールでもよいとした。国立大学の三つの類型で「特色」を選び、小規模でも多様性を重視する思想が体現されている。

電通大は授業手法を全学同一に縛らず、5タイプから選べるようにした

将来的には「各システムを取りまとめるシステムを整備したい」と中村淳副学長・情報基盤センター長は考えている。また同大は1都3県から日本で最も乗降客の多い新宿駅経由で通う学生が多く、首都圏の新型コロナの状況が影響しやすい。前期のオンライン授業期間は延長をこまめに繰り返し、後期の方針も思案中だ。

Data/6割が面接・遠隔授業を併用

7月1日時点での文部科学省調査によると、大学と高等専門学校で新型コロナにより中断されていた授業は再開され、調査対象1069校のすべてが授業を行っている。実施方式のうち「面接・遠隔授業の併用」が、642校と全体の60.1%だった。遠隔授業のみが254校、23.8%。面接授業のみが173校、16.2%だった。

遠隔授業のみの254校に「一部で面接授業を始める時期」を尋ねると、有効回答のうち時期の順に「7月中」が28.3%、「8月中」が22%、「9月以後」が24.8%。「検討中」としたのは23.2%だった。

まだ遠隔授業を手がけている896校に、「全面的な面接授業を始める時期」を聞いた結果は、有効回答のうち時期の順に、「7月」は3.9%、「8月」は2.1%、「9月以後」が25.1%。「検討中」が59.7%だった。その後、再び全国で感染者数が増え、開始から中断に転じる大学も出ている。

さらに学内施設の利用の質問を全体に尋ねた結果で、最多は「授業や研究以外も一部可」と広げているのが42.4%、「授業や研究のみ可」が34.5%。「全面的に可」も15.0%であるが、「全面的に不可」も1.7%であった。

【キーワード/オンデマンド型授業】

ウェブを通じた遠隔のオンライン授業は大別すると、受講者が時間割からずらした時間も活用して、動画や資料をダウンロードして学ぶ「オンデマンド型」と、ウェブ会議システムを使った同時双方向の「リアルタイム型」がある。リアルタイム型は議論や演習に向くが、動きが乏しい座学でも動画で大容量となる問題がある。

オンデマンド型は学内でのLMSを使い、ここに教材や課題を教員が置き、学生は学外からパソコンのビューアでアクセスするのが典型だ。社会人向け遠隔講義や、離れた大学間の単位互換などで一部、実施されていた。

日刊工業新聞2020年8月13日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
秋からの新学期は多くの大学で、改善したオンライン授業と対面授業の組み合わせというのが主流になるだろう。各大学は教員、学生アンケートの反応をみて、どう変えるか、学生の満足度を高める工夫をする段階にある。うまくできなければ休学・退学の希望者増につながる可能性大という点で、これまで展開されてきた大学改革の項目とは異なる真剣さになるのではないか。

編集部のおすすめ