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大学の授業科目の相乗りが可能に、再編にも影響か

文部科学省は各大学の独自開設が原則の授業科目に対し、連携する他大学の科目をそのまま活用できる新たな仕組みを始める。この「連携開設科目」は1法人傘下の大学間か、新制度で文部科学相認定の「大学等連携推進法人」に参加する大学間が対象だ。重複する一般教育や受講者が少ない科目を合理化し、経営資源を他に投入できる。1法人複数大学の国立大学、短大と4年制大学を持つ私立の学校法人、新制度を先取りする地域連携「アライアンスやまなし」の国立・県立大学など、広く影響しそうだ。(編集委員・山本佳世子)

この連携開設科目は国公私立の各法人内の大学同士(短大含む)の学部間や大学院間で、連携先の大学の科目を受講・修了した学生に、所属大学の単位を認める仕組みだ。条件は連携推進方針の公表など。学士など各課程で卒業要件の単位の4分の1程度まで可能だ。カリキュラム見直しや担当教員の退職時に、有力な選択肢になるとみられる。法人を超えた連携は、新制度を活用して同様に行える。

新制度による大学等連携推進法人は特定地域などで、国公私立の大学を抱える法人、研究開発法人、自治体などが参画する一般社団法人だ。緊密な大学連携が安定的に行える体制を整備し、文科相の認定を受ける枠組みが固まった。同科目設立など教育機能強化の他、物品の共同調達や研究施設の共同利用などに取り組む。すでに山梨大学、山梨県立大学が認定を目指して法人を立ち上げている。

大学は学位授与に責任があるため、特殊な語学など選択科目を除くと「科目は自ら開設する」とされる。他大学での受講による単位互換制度でも、同じ科目を自校で開講し、プログラムや教員をそろえてあるのが前提だ。しかし少子化が進む中、文科省は重複を避けて経営資源を別の教育研究に活用してもらうために転換する。

中央教育審議会大学分科会の議論で、同科目と新制度の仕組みが整った。パブリックコメントを経て2020年度内に大学設置基準などを改正、施行する。新制度の法人認定も今年度内に受け付けを始める。

国立大学は運営費交付金削減により、退職教員の補充をしないケースが目立ち、幅広い科目の維持が負担になっている。再編は1法人複数大学型で4件が動いており今春、名古屋大学と岐阜大学による新法人が発足した。再編しても企業と異なり教職員のリストラは難しいが経営形態は複数の大学を抱える私立の学校法人と同じだ。そのため同科目での合理化が期待できる。

同科目は学生の行き来が難しい遠隔地の大学とはしづらい。しかし新型コロナウイルス感染症の対応でオンライン授業が浸透したことから、検討の対象はこれまで以上に広がりそうだ。

東海国立大学機構に属する名大と岐阜大の間でも、連携科目が可能になる(機構発足の会見)
日刊工業新聞2020年7月23日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
新法人についての審議会部会での議論は、以前から気にしていたが、「どのくらいのメリットがあるのか? たいしたことはないのではないか」と思っていた。それだけに連携開設科目の魅力に驚いた。要するに、しっかりした組織連携で、学位授与や教育のポリシーをきちんと合わせた大学同士であれば(文科省への報告や公表があれば)、単位互換よりずっと簡単に、科目の相乗りができるという話だ。国立大学再編では「たいしたメリットがない」と口にする学長は多く、私もそう思っていたが、こうなると違う。自ら抱える科目も教員も減らせるなら、大学トップの意識は大きく変わるのではないか。

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