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大学改革に全力で挑む日本電産・永守氏「10年で京大抜く!ノーベル賞もとる!」

京都先端科学大学・理事長、渾身の5000字インタビュー・下

2018年に京都先端科学大学の理事長に就任し、大学改革に乗り出した日本電産の永守重信会長の独占インタビュー後編。「10年で京大を抜く」「ノーベル賞をとる」などの高い目標を掲げ、日本の教育界に一石を投じている。その熱い思いを聞いた。前半はこちらから。(聞き手・山本佳世子、大原佑美子)

理事長の言葉に感激した

-新型コロナでオンラインの活動が急速に広がりましたが、どう見ていますか。

実は必ずオンラインの時代が来ると考えて、昨年の秋口まで整備を進めていた。できあがった瞬間にコロナがきた。オンラインなら英語で受ける授業も繰り返し聞けるし、すぐに(ウェブで)翻訳できるし、質問もしやすい。人間はフェース・ツー・フェースで学ばないといけないことがあり、少人数のゼミなどでは大学に来ている。私の教職員への訓示も、学生にもオンラインでがんがん話して、質疑応答もしている。学生に「なぜこの大学か」と聞くと、「高校生の時に理事長から送られてきた言葉に感激した」とか、そういう声が直接、返ってくる。

これから増やしていく留学生も、地方の生徒も、ウェブのオープンキャンパスなど見に来ることができる。わが社の場合はテレワークで3月の生産性は3分の1くらいだったが、慣れてきてツールもよくなり、いいところもあるなと感じている。入社希望者だって遠方から費用をかけて来ないですむ。オンラインでできることと、そうでないことを組み合わせて、いいとこ取りだ。

-産学が連携しての教育についてお願いします。

今までの学生の最大の問題は、企業を知らないこと。インターンシップ(就業体験)も短くて、座って工場見学したら終わり。日本電産は世界に300社を大きく超えるグループ会社を持つ。学生のインターンは米国平均の3カ月でも、1年でもいいといっている。英語もうまくなって帰ってくる。

卒業生全員、うちが採用したい!

工学部の(ピラミッドの頂上に最後に置く石から命名した)キャップストーンプログラムも、いかにして現場に近づくかという問題意識で考えた。様々な会社から課題テーマをもらって、1回生の時から関与していき、最後の学年で(卒業論文に替えて、解決策を)仕上げる。そうすると、新入社員でもすぐに現場に出て行ける。設計でも開発でも研究でも、違和感なくいける。卒業生はおそらくひっぱりだこですよ。ほしかった人材を、採用する側が手がける教育だから。卒業生全員、うちが採用したいくらいです。

-大学は中立的な特性から、社会のハブになれる面がありますが、貴学はどうでしょうか。企業色が強いと他社は遠慮しそうですね。

そんなことはないです。世界の著名な会社が、社員を留学生として送りたいと言ってきてます。世界一のモーター企業の創業者が作る教育機関に、人を送り込みたいと。競争相手全部に来てもらって結構。先に永守財団をつくっており、モーターの研究者の顕彰や研究補助金を手がけて、競争相手も受賞してもらっている。小さな考えではやっていない。

10年で京大抜く、ノーベル賞もとる!

京都先端科学大は今春、本命の工学部機械電気システム工学科を開設
-世界大学ランキングでの健闘を宣言しています。

2025年には(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学の)「関関同立」を抜き、30年に京都大学を抜く。最後は米ハーバード大学、英ケンブリッジ大学も全部、抜きたい。偏差値ランキングではないので、(国際性や教育の質が重視されるため)抜けます。実際、中国や東南アジアの大学が順位を上げているでしょう。だから、すべて英語でやります。これなら留学生も集まる。ランキングの審査に沿った形にもっていけるわけです。夢のような話だといわれるけど、そんなことはないです。日本電産を1973年に、自宅で従業員3人とつくり、世界で最強のモーターメーカーになった。大学も一緒です。

最近は考えを変えて、研究も負けない、ノーベル賞もとろうと思っている。ノーベル賞は近年、民間企業の技術者に与えるようになって、省エネの青色発光ダイオード(LED)も受賞した。モーターだって電力消費量を半分にしたらノーベル賞ですよ。世界の電力量の半分をモーターが消費しているのだから。「ナガモリアクチュエータ研究所」をつくり、授業を持たなくてよい研究専任の先生を集め始めている。産業界の力で社会を変えることで、ノーベル賞をとれるような研究をするのです。

玉露のカスよりも番茶の上等!!

-若い学生には、理事長の叱咤激励は厳しくありませんか。

僕の話で、学生は勇気を持ちますねえ。自信が生まれます。僕は東京大学卒でも何でもないから。目を輝かせて話を聞きますよ。どこの一流大学を出たかという時代は終わった。実力で生きていく。以前は「歴代社長は全部、東大」という大企業もあったが、今や(一部上場企業にも)徳島大学や大阪工業大学出身のいい経営者がいるでしょ。一流大学の卒業生なんて、使われるんじゃなくて、使うもの。玉露のカスよりも番茶の上等の方がおいしいんだ。だから自信持ちなさい、と。それから学生には「あなた方、起業しなさい」といっています。新型コロナが収まったら、大学に起業塾をつくるから、そういうところで学んだらよい、と。

「世界大学ランキング」でトップクラスを目指す
-学生を惹きつけられず、経営不振の大学が今後、増えるといわれています。中規模大学なら大きく経営の舵を切ることができますし、貴学はモデルケースになるかもしれません。

変革のスピードが大事です。他大学で10年かかるものを数カ月でやる。2年で学長も学部長も全部変えて、新しい教育に理想と夢と希望を持っている一流の人を集めた。大学に行って「先週に比べて何が変わったのか説明してくれ」と聞く。毎日、変化している。数年後、卒業生が出てきたらわかりますよ。成功事例を作ることが、(社会を)変える方法。今から見ていてください。

日本電産本社〈京都市南区〉の別室からオンラインでインタビュー。写真はモニターを撮影
京都先端科学大学 学校概要

1969年に「京都学園大学」として開学。19年4月に「京都先端科学大学」に校名を変更した。20年4月現在で、経済経営学部、工学部など5学部11学科体制の総合大学だ。日本電産会長である永守重信氏が18年3月に理事長に就任。日本が国際的な競争に勝つための、世界水準の実践力を備えた人材の育成を掲げる。専門性や教養に加え、全ての学生が英語のスキルを身に付ける英語教育を実施。体育の必修化でチームワークやリーダーシップ力など、多様な社会の中で必要なグローバル社会人基礎能力を養い“京都発世界人財”輩出を目指す。22年春にMBA(経営学修士)を取得できるビジネススクールの開校を予定している。

日刊工業新聞2020年7月9日の拡大版
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
ドラスティックな真の改革は、その組織の文化やルールを知らない、外から来た人にしかできないのだろう。大学の法人トップを研究者が務める場合、伝統と過去を重視し、組織員の合意をなんとか取り付け、経済的に依存する政府の上意下達に振り回され、そして数年したら任期満了だ。改革は、たいして進まないようになっている。対して世界トップ企業のカリスマ創業者が乗り出したなら、大風呂敷を広げて周囲を刺激し、組織員には飴と鞭を適切に使い分け、自らの資産も投入し、そして必ず結果を出してくれることだろう。

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