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量子AIを1年生全員に学ばせる“異色国立大"の狙い

量子AIを1年生全員に学ばせる“異色国立大"の狙い

画像はイメージ

電気通信大学は量子コンピューターと人工知能(AI)を融合する「量子AI」を、教育研究の全学重点テーマに決めた。AIによる推論や機械学習プロセスに対し、量子コンピューターで高速化する手法の解説を、今春から学部1年生の必修科目内で始める。研究は量子、レーザー、AIの学内各研究センターなどの連携プロジェクトを検討する。全学のAI戦略を、量子をキーワードに質と量で充実させていく。

ビッグデータ(大量データ)のAI分析で法則性を導く手法は、計算に時間がかかるのが課題。そこでスーパーコンピューターの性能を超えると期待される量子コンピューターを活用するのが量子AIだ。米国では米航空宇宙局(NASA)とグーグルが共同研究を進めているが、日本では反応が鈍い。

同大学は全学の教育研究を紹介する科目(全15回)後半で、学部1年生約750人が量子AIや、AIを作るプログラミング言語「python」(パイソン)の基礎を学ぶ。大学院修士1年生向けの同様科目は1学年約500人の半分が学ぶ。その後、企業データの分析でAI作成を世界で競うイベント「Kaggle」(カグル)への挑戦を後押しする。7日が授業開始日となる前期科目の遠隔授業で始める。

量子コンピューターの開発はハードの物理系、ソフトの情報系の両輪が必要だ。そのため量子AIでは同大の量子科学研究センター、レーザー新世代研究センター、人工知能先端研究センターなどの資源を結集する。

政府の「AI戦略2019」は国内全大学1学年50万人がAI活用のための初級を学ぶ一方、AIを作る理工系の専門人材育成を年2000人で掲げる。同大は情報、通信、機械、物理の4分野からなる単科大学で、構成員の多くがプログラミングの素養を持つ。全学でのAI活用・作成に、量子コンピューターを組み合わせて存在感を高める戦略だ。

日刊工業新聞2020年5月5日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
電通大の教員に以前、「プログラミングはうちなら全員ができるので」と言われて、ショックを受けた。職員は別と思うが、教員はもちろん、「簡単なものなら学部の低学年でもそうなのか」と、”バリバリ”ではない理系出身の私は、驚いたものだった。大学院修士課程でいうと電通大は情報、通信、機械、物理の4専攻で1学年定員は約500人だ。他大学と比較しにくい特殊な単科大学だが、例えば東京大学の情報理工学系研究科は19年度で約150人、工学の全分野を広くカバーする工学系研究科は約630人だ。それを考えると同大の、AI専門人材育成における潜在力は、なかなかのものではないかと思う。

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