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大学改革の評価拮抗、過渡期で意見が多様に

NISTEP定点調査
 文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による第一線の研究者や有識者の定点調査で、直近3年間の“研究力向上に向けた大学改革”項目で、評価が変化していることが分かった。「産学官の組織的連携の取り組み」では4割が評価を変えており、うち悪化、好転とした割合は半々だった。若手研究者の環境や学内組織見直しも、両方が拮抗(きっこう)しており過渡期にある様子が示された。

 「NISTEP定点調査2018」は第5期科学技術基本計画中に毎年、同じ質問を中心に問いかけ、同じ回答者が多段階評価で答えている。2018年秋の回答者数は2502人(回答率91・1%)。基本計画の前半(16―18年度)での回答の変化を大・小、悪化・好転で分析した。

 変化が大きい項目を見ると、1位は「我が国の基礎研究から国際的に突出した成果が出ているか」だ。36%が悪化とし、8%の好転より問題視する声が強い。一方、2位は若手研究者の環境整備で悪化が23%、好転が19%だ。大学の「多様な財源確保」「研究資金配分」も、悪化と好転の両意見だ。

 「学長のリーダーシップ」は悪化が23%、好転16%だ。回答者が学長らマネジメント側か、現場研究者側かの違いが大きい。「リーダーシップの方向性が学内構成員に理解できていない」「上からと下からの両視点が不可欠との認識が広がった」など、意見が多様な状況が明らかになった。

キーワード/NISTEP定点調査


 Q 5年間の科学技術基本計画と連動した毎年の調査なの。

A そう、2006年度の第3期基本計画開始時から続いている。2500人ほどの回答者のうち、大学・公的研究機関で部局長から推薦された一線級の研究者が6割を占める。他に学長やプロジェクト担当者、それに回答者の2割が企業の役員など有識者だ。

Q 論文数といった定量データではないんだね。

A 回答者の実感を尋ねる定性データだ。約60問に対し、回答者が前年にどう判断したか見せた上で聞いている。基本計画の進捗(しんちょく)確認や、次期の計画策定などに活用される。正式名は「科学技術の状況に関わる総合的意識調査」だ。

Q 回答者により傾向が違うのでは?

A そうだ。定点の6パート以外に今回、深掘り調査として聞いた「大学の基盤的経費充実で賛成する取り組み」(複数回答)で見てみよう。「企業との組織的な連携」に賛成するのは学長などで70%、企業など有識者で56%、研究者は46%。立場によって意識が違うことがわかるね。
日刊工業新聞2019年4月18日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
注目施策がどのように現場や有識者から見られているかが、毎年の定点調査によって分かることは意義深い。研究力向上と絡めた大学改革が、まさにその注目施策だ。「悪くなった」との現場の声と、「良くなった」といいたい施策・管理側の声は、対立するのが普通で、施策実施の当初は今回の結果のように拮抗するのだろう。問題は経年変化でどう変わっていくかだ。専門記者として私は、来年以降の調査でもこの部分に眼を光らせてたい。

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