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顧客と深める実用性。マイクロトロン型電子加速器の高いポテンシャル

顧客と深める実用性。マイクロトロン型電子加速器の高いポテンシャル

加速器部分

 金属技研は小型の電子加速器を開発、初の自社ブランド製品の販売を目指している。ただ、この開発プロジェクトの目的は自社製品を生み出すことにとどまらない。加速器を核としたコンパクトな電子線照射システムの実現で、滅菌や材料改質をより実施しやすくするとともに、これまでにない用途を生み出そうとしている。電子線照射が持つ可能性を広げ、顧客に新しい価値を提供しようと挑戦を続けている。

潜在需要に手応え


 金属技研が開発しているのが「マイクロトロン型電子加速器」だ。直進する電子など荷電粒子に磁場を加えると、ローレンツ力で円軌道を描く。円軌道の一部に加速空洞を置き、空洞を粒子が通過する際に強力な電場をかけ加速、円軌道で繰り返し加速するのが加速器の基本原理だ。マイクロトロンは変化しない一様な磁場で、一つの加速空洞で電子を加速する。電子線照射システムでは電子銃で打ち出した電子を加速し、所定のエネルギーに到達した電子を装置外部に電子線として出力する。この電子線が滅菌や材料改質に使われる。

 プロジェクトチームのリーダーである技術本部加速器応用部加速器応用課の吉田昌弘課長は「例えば電子線照射による滅菌は国内では20年以上前から実用化された技術。より使いやすくすれば利用は増える。小型の電子線照射システムの潜在需要に手応えを感じている」と開発の意義を強調する。

 金属技研が完成させたマイクロトロン型加速器は幅220ミリ×奥行き200ミリ×高さ250ミリメートルのコンパクトさ。高周波で電場を発生させるタイプで、エネルギーが0・95MeV(メガエレクトロンボルト)の電子線を照射する。電子線照射システムとしての試作装置を完成させ、昨年秋から滋賀工場に設置した。「マイクトロンを用いた照射装置はほかにない」(吉田課長)ため独自性が高く、それゆえユニークな利用も想定される。

マイクロトロン型の優位性


 電子線照射の用途で期待が大きいのは、やはり滅菌だ。実際に医療・医薬分野の機器や器具、容器のほか、PETボトル向けで普及している。電子線が直接DNAなど生体分子を電離・励起することで細胞に直接損傷を与え死滅させる。また電子線で生体中の水分子がラジカル化し、細菌の死滅や再生障害を起こす。

 この用途でもマイクロトロン型加速器の優位性はある。例えば広く使われている高エネルギーを照射する静電型加速器はその構造から、設置に一つの部屋が必要な大きさになる。これに対し同社製のマイクロトロン型加速器ならば処理能力は限定されるが、そのコンパクトさから製造ラインに組み込む「インライン式」の連続滅菌プロセスが実現できる。また、コンテナ内に加速器を設置しトラックで可動できる「移動式」の電子線照射装置も考えられる。設備内に複数台の加速器を設置することで設備に冗長性を持たせられるなど、金属技研製品ならではの、これまでにない滅菌ソリューションを提供できる。

 また、産業用加速器はエネルギーが10MeV以下から数百KeV(キロエレクトロンボルト)まで、複数のタイプが幅広くある。大量の滅菌処理を行う大規模設備では、大規模の加速器で高エネルギー照射する。ただ、設置コストは高額になるため、大量生産する企業が導入するケースが多い。こうした市場に「中エネルギー照射だが、導入しやすい価格帯の装置に仕上げることで顧客が適した使い方を選択できるのではないか」(吉田課長)との期待もある。

中エネルギーだからこそできること


 一方、高分子材料に電子線を照射することで、材料を改質する用途では低エネルギーの加速器を利用する。これに対し、0・95MeVのエネルギーは中エネルギー領域の位置づけで、改質用加速器よりはエネルギーは高い。しかし、「例えばフィルム状の材料を改質する場合、複数枚を重ねて中エネルギーの電子線を照射することで改質処理を効率化するなど、中エネルギーだからこそできることがあると考える。」(吉田課長)。

 2―3年内の初号機販売を目指し開発プロジェクトは歩みを早めている。装置としての長期安定性、制御性向上、メンテナンス性考慮など手がける開発テーマは多い。それと並行して現在、滋賀工場に設置した試作装置で試験的に外部からの照射試験を受けている。これは「電子線照射を利用すると何ができるのか。そうした興味を持つ顧客と向き合っていく。その中で、マイクロトロン型加速器の実用性が深まっていく」(吉田課長)との考えからだ。

 「冶金の技術をもっと生産現場に」というのが金属技研創業時の精神だったという。今新たに、「電子線照射技術を広く産業分野に」というチャレンジスピリッツで開発プロジェクトが進んでいる。
吉田昌弘課長

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