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長崎大がソフトバンクの無担保社債を2億円分購入したワケ

駐車場用に土地の貸し付けも
長崎大がソフトバンクの無担保社債を2億円分購入したワケ

斜面の多い地域の特性を生かし駐車場収益事業に乗り出した(文教キャンパス=長崎大提供)

 長崎大学は国立大学の規制緩和を活用し、寄付金の資金運用と土地の貸し付けを始めた。ソフトバンクグループの無担保社債を2億円分購入し、6年間で利息約1900万円を見込む。土地貸与は駐車場事業会社にまず、8月から36台分で開始。次いで120台分も具体化する。二つの手法を活用する国立大は初めて。坂が多く、駐車ニーズの高い地域特性を生かすなど、地方大学でも可能な資産運用に注目が集まりそうだ。

 国立大の資産運用は従来、国債や定期預金など元本保証の金融商品に限定され、長崎大も担保付き社債の電力債を手がけるまでだった。無担保社債は2017年度の規制緩和で可能になった商品だ。同大は償還期間が6年と比較的、短くて年利1・57%のソフトバンクグループの社債を、18年6月に購入した。

 土地の貸し付けの第1弾は、経済学部の片淵キャンパス(長崎市)のテニスコート跡地だ。1208平方メートルで今夏から始める。第2弾は街中で本部のある文教キャンパス(同)の4072平方メートルを計画している。国立大で通常はない固定資産税を支払った上で、それぞれ年数百万円の収益を見込む。

 国立大の収益事業推進は文部科学省が15年度に打ち出し、同大は16年度と早期にワーキンググループを立ち上げていた。今回の規制緩和後に、同大は余裕金の最初の認定を島根大と、土地などの最初の認可を東京医科歯科大と、それぞれ文部科学相から得ている。

 一般に資産運用は、運用原資の寄付金や土地を多く持つ大規模大学が有利とされる。同大は病院を持つ中規模の総合大学で、病院に多い奨学寄付金や、斜面が多い長崎市の地域特性に着目。自己収入増に加え、大学改革の先進性をアピールするため早期に実施した。

国立大の資金運用の状況は


 Q 国立大学の資金運用自体は、以前からされているそうだが。

 A 大学には収入のうち、すぐに支払いに使わない手元の余裕金がある。それらを元本保証の金融商品で運用することは、以前から認められていた。具体的には国債、地方債、銀行の定期預金などだ。利率が高い時期はよかったが、低金利時代の今は魅力に乏しい。

 Q 規制緩和で可能になったのは。

 A 元本保証でない金融商品への投資だ。私立大学の学校法人と異なり、株式そのものは禁止だ。それ以外は社債、外国債、外貨預金、投資信託などほとんど可能だ。元本割れする可能性があるため、運営費交付金など税金は原資とできず、寄付金を使う。各大学の財務諸表のうち、寄付金の債務額(受け入れ額の未使用分)が運用に回せる。

 Q どの大学でもすぐにできるのか。

 A 大学ごとの資金運用の規定や運用管理委員会の体制整備が審査される。複数の区分があり、リスクが高い商品を扱うなら、運用業務の経験がある委員が入るなど、ハードルが高くなっている。
日刊工業新聞2018年8月2日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
新規2手法に唯一、着手した大学が、なぜ長崎大なのか?それが私の最初の疑問だった。この国立大の規制緩和ではまだ、「(他大学の動きなど)様子見」とする大学が少なくないからだ。紙面では「16年度と早期にワーキンググループを立ち上げた」とだけ書いたが、背景に片峰茂前学長の危機意識があったという。2017年10月まで3期9年間と長く学長を務め、財務状況にも詳しく、「大学自らが稼ぐ、という流れは止めようがない」と実感し、準備を早くから進めていたという。学長選びはしばしば、大学運営の戦略が逆の候補が有利となり、振り子が揺れるように、数年で方針転換となることが少なくない。就任期間が長いケースでは、改革の方向性を正しく見通せるメリットがあるのだなと感じた。

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