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学外選挙人が5倍に増えた早大の総長選、結果はどうなる?

25年ぶりに制度改正、違反への対応も明確化
学外選挙人が5倍に増えた早大の総長選、結果はどうなる?

25年ぶりの抜本的な制度改正で学外選挙人が5倍の1000人に増えた(早大の大隈講堂)

 早稲田大学の次期総長を決める総長選が10日、公示される。制度改正で今回は、投票権を持つ選挙人が大きく増え、候補者も推薦委員会によるものから立候補に変わった。特に学外選挙人が200人から1000人に拡充され、卒業生の声が届きやすくなった点が目を引く。学長選考会議などが決定する他大学で混乱が見られるのに対し、早大は選挙のみでわかりやすいが、候補者間の対立を招く心配は残る。各ステークホルダー(利害関係者)が納得する選挙戦となるか。投票日は6月14日だ。

 「大学のトップは選挙結果で選ぶ方が、学内教職員の納得が得られ改革を進めやすい。『学内論理に終始するのでは』という声には、学外選挙人をぐっと増やすことで対応した」。鎌田薫総長は2018年1月に決めた、25年ぶりで抜本的な制度改正の理由をこう説明する。自身は任期4年を2期、務めて11月に退任する。

 私立大学を運営する学校法人には、理事会の下に評議員会が置かれる。さらに早大には独自の「商議員会」もある。メンバー1000人のうち1割強は評議員会の推薦で、学外評議員と合わせた200人が従来も選挙に参加していた。新たな選挙人となったのは、商議員の9割弱を占める校友会選出メンバーだ。卒業年次や地域、職域別などの卒業生組織の校友会(稲門会)がこれを支える。

 選挙権の獲得は大学運営への参画の重要な形。「参画について前向きな質問をもらっている」(佐藤宏之総務部長)という。この結果、今回の選挙人は学内(専任の教員と職員)約2000人、学外約1100人で計3000人超となった。

 もう一つの注目は候補者の推薦制から立候補制への変更だ。従来は学内外メンバーによる「総長候補者推薦委員会」が適任者を選び、候補の上位5人を選挙対象に推薦していた。しかし鎌田総長の2期目を決めた4年前は、他の推薦者は4人全員が辞退した。それもあり、明確なビジョンを持つ立候補者を募る形に転換した。学内が過半の推薦人20人以上が集められれば、早大と無関係でも立候補できる大胆な変更だ。

 近年の大学は、学長選の結果は参考にとどめ、理事会や別の学長選考組織が決定する形が少なくない。「選挙結果を無視している」ともめがちだ。早大は選挙だけで透明性が高いが、中傷合戦となった過去もある。

 そのため今回は、選挙活動での禁止事項と違反への対応も明確にした。民主的でクリーンな新選挙が実現できるか、今回の総長選は「試金石になる」(鎌田総長)。校友62万人にとどまらない社会の視線が集まっている。

私大の学長選ってどんなもの?


 Q 国公私立大学の学長選考法にはどのようなものがあるか。

 A 現場の教職員の声を反映する「学内選挙」、有識者が決める「理事会や学長選考会議の議論」、それに「両方の組み合わせ」という三つが中心だ。「組み合わせ」は国立大学の9割以上で行われているが、私立大学では1割程度だ。私立大は選挙、選考会議、それに「その他」が2―3割ずつだ。

 Q 総長は学長と同じなのか。

 A 私立大学を運営する学校法人は、付属校や収益事業など含む法人業務の意思決定機関が理事会で、トップが理事長だ。学長は大学のトップ。それぞれ経営(法人)と教学(教育と学問)の責任者だ。総長はこの理事長と学長を兼務する。ただ理事長、総長、学長が別というケースもある。

 Q 早大では総長の「信認投票」を学生ができるとか。

 A 正規学生5万人強に権利がある。「信認せず」が過半数となったら、候補者に「それでも決定選挙に進むか」を問いただす。学生運動が盛んな頃にできた仕組みだが、今の学生の関心は集めにくく、投票率は1%未満だそうだ。
   
日刊工業新聞2018年5月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
早大総長の出身は法学部が多いが、これまでに理工や文、政経もある。立候補の届け出は10日から5日間。どのような顔ぶれが出てくるのだろう。早大卒業生は総数に加えてジャーナリストも多い。過熱して週刊誌を騒がせるようなおかしな形にならないことを、新制度を整えた関係者は願っている。

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