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グーグルによるシャフト買収の裏側と、ヒューマノイドへの期待

『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』著者の鎌田富久氏に聞く(下)
グーグルによるシャフト買収の裏側と、ヒューマノイドへの期待

ACCESS共同創業者/TomyK代表の鎌田富久氏(撮影:冨家邦裕)

 米グーグルによる日本企業のM&Aとして、当時大きな話題になった東京大学発ベンチャーのSCHAFT(シャフト)。2017年には同じく米アルファベット(グーグルの親会社)傘下の米ボストン・ダイナミクスとともにソフトバンクグループに買収されたが、もともとグーグルにシャフトを紹介したのがTomyK代表の鎌田富久氏(ACCESS共同創業者)だ。インタビュー(上)に引き続き、テクノロジー・スタートアップを後押しする鎌田氏に、シャフトをめぐる一件や、ヒューマノイド・ロボットへの期待を語ってもらった。

 −鎌田さんが書いた『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』(東京大学出版会)の第1章では、支援する5社のテクノロジー・スタートアップが紹介されています。うちシャフトについては、13年12月にグーグルによる買収が明らかになり、その直後に開催されたDARPA(米国防高等研究計画局)の災害対応ロボットコンテスト「DARPAロボティクス・チャレンジ(DRC)」トライアル(1次大会)で他のチームに大差をつけて1位になった。あの時、我々も非常にびっくりしましたが、そんな高い技術力を持つシャフトがグーグルに買収されたのは、日本国内で十分な資金が集められなかったからですか。
 「シャフトは当時、創業してからまだ1年半だったので、普通に考えても(資金調達が)難しい時期だった。米国だとスタートアップを支援する層が分厚く、そうした起業したての会社に対しても、リスクを取って投資する企業やエンジェル投資家がいる」

 −シャフトの案件は最初、グーグルのベンチャー投資部門であるグーグル・ベンチャーズ(現GV)に持ち込んだのですか。
 「そうではない。(当時グーグルのロボット部門の責任者だった)アンディ・ルービンに直接話を持って行った。アンドロイドOSの開発者である彼とは以前からコンタクトがあり、ACCESS時代から知っていた。アップルはじめ、彼が会社を移るたびにいろんなところで顔を合わせる機会があったし、ロボット好きというのも知っていた。彼がグーグルでアンドロイドのチームを離れたという話を聞いた時に、グーグルを辞めるのかなと思い、そうであればシャフトに個人で投資してくれるかもしれないと連絡したところ、「1回見に行こう」という話になった。その際、グーグルの投資グループも一緒に日本にやって来て、話がまとまった」

 −アンディ・ルービンはシャフトの価値を見抜いて、買収を即決したと?
 「それには彼なりの理由がある。アンドロイド自体がグーグルに買収された会社だからだ。アンディ・ルービンはアンドロイドOSを製品化する前の段階でアンドロイドという会社を作り、グーグルに買収された後に事業を大きくして成功した。彼が来日した時、自分の体験をもとに「早い段階でも資本力のある大企業と組めばいいことがあるよ。我々と一緒にやらないか」と話していたが、けっこう説得力があった」

 −グーグルは当時、ロボット企業を計8社も買収しました。それでも、うまくロボット関連を事業化できなかった原因はどこにあったと思いますか。
 「ロボット事業はアンディ・ルービンのリーダーシップとビジョンで進められていた。彼がいなくなった時点で彼に代わるような人物が見つからなかったことが大きい。一説には(DRCの責任者で)DARPAプログラムマネージャーだったギル・プラットをグーグルが引き抜こうとしたという噂もある。彼は最終的には(トヨタのAI開発子会社)トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のCEOになったが、引く手あまたでいろんなところからオファーが来ていたようだ。グーグルでロボットプロジェクトを率いることができそうな人はあまりいなかったし、たぶんギル・プラットはその候補の1人だったと思う」

 −シャフトとともにソフトバンクグループに買収された米ボストン・ダイナミクスの開発するロボットは時折ユーチューブに動画がアップされ、話題になることも多い。ただ、グーグルでさえ会社をまとめきれず、ビジネス化できなかった。それがソフトバンクグループ傘下になり、肝心の事業化は進むと思いますか。
 「日本は労働力不足など課題が多いし、最初のマーケットとしては結構いいかもしれない。いきなりヒューマノイド(人型ロボット)で汎用的なものにはならないだろう。ある特定の用途に合わせたロボットを開発し、数年以内にいろいろな製品がけっこう出てくると思う。日本国内で製品が実際に使われ始め、市場で鍛えられて、少しずつロボットのできることが増えていくことになるのではないか。荷物を運ぶとか、人間が入れないところで活動するとか、災害対応向けもあるかもしれない。将来の製品分野としても市場としても、ヒューマノイド・ロボットは非常に面白いと思っている」
(聞き手=藤元正)
2018年4月7日付日刊工業新聞電子版
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
確かにヒューマノイドの開発には資金も時間もかかるので、ホンダの「アシモ」のように大企業か、国家プロジェクトでないと実用化は難しいかもしれない。グーグルはアルファベットという持ち株会社を作って以降、莫大な資金を必要とする先端技術開発をだらだら続けるのではなく、自動運転車のウェイモのように事業化の出口をきちっと定めた上で取り組むように変わってきている。一方、ソフトバンクグループは、シャフトとボストン・ダイナミクスについて買収した時以上の付加価値向上に努めるだろうし、ペッパーを通してロボットの要素技術も持っている。それぞれの技術を融合しながら、実用的なヒューマノイドの実現を期待したい。

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