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「技術競争力は世界一」に潜むワナ。電力コスト高が素材産業を苦しめる!

「国内生産へのこだわりがなくなると、国力低下につながる」(棚町アイアールユニバース社長)
「技術競争力は世界一」に潜むワナ。電力コスト高が素材産業を苦しめる!

川重が航空機の機体を製造する名古屋第一工場に導入した世界最大級の複合材硬化炉

 資源を直接的に扱う素材産業においての競争力とは何であろうか。これは各国で前提条件が違うゆえに単純ではない。日本の場合、電気代は高く、人件費も高い、環境対策コストも高い、法人税は若干低下する可能性はあるが、人口は縮小傾向、為替は1ドル=125円台まで円安が進んではいるが、素材産業にとって円安は原材料高になりメリットはない。

 ある業界団体の会長が言っていたように「(為替の円安が進んでも)国内に生産拠点を戻すという動きにはならない」だろう。はっきり言えば、日経平均株価が2万5000円になっても、為替が1ドル=150円になっても日本の国内総生産(GDP)が劇的に上昇することなどはありえない。

 そもそも株価が上昇して大企業の利益は伸びているようだが、多くの中小企業は好景気という実感を得ていない。金融緩和だけは行っているが、実体経済が脈打つ政策を実行できていないからだ。

 霞が関の官僚の方々は国内にモノづくりが残ってこそ、と言い、毎度変わらず皆さまのモノづくりをサポートします、と飽きもせずに繰り返すが、ただただ言うだけ。電力コストを引き下げ、内外需を生み出す政策を建設的に展開していくほうがよほど製造業、ひいては国民のためになろう。

 この点、韓国や中国に見習うべき点はある。製造業の競争力(あるいは国威)を維持するために国家指導のもと、電力多消費産業への電力供給コストは抑えている。中国の場合は過剰なほどに電力供給を融通しているため、アルミ新地金の生産過剰が止まらないという副作用も生じているが。

 日本のモノづくりは6重苦、7重苦とも言われていたが、国の無策を入れたら8重苦になる。そんな8重苦状態の国内立地でも世界で高い市場シェアを得ている素材は多い。例えば、航空機向けのチタン材料。これなどはハイグレードの金属チタンを航空機メーカーに供給し続けているが、ご承知のようにチタン精練は多電力消費型であり、電気代の高い国内で生産することが逆に足かせになっている。

 航空機でいえば炭素繊維も日本企業が強い。電炉製鋼メーカーも電力高に苦しんでいる。電力コストの高い素材産業は国内工場を閉鎖するか海外に移転するかの流れは止まらない。

 欧州自動車メーカーに供給しているターボチャージャーの特殊鋼鋳物も日本の特殊鋼メーカーが圧倒的なシェアを有しているが、今後も国内で生産を続けていけるのかどうか。電池、磁石といった高付加価値機器に欠かせない部材でも国内生産よりも海外生産が伸びている。

 海底ケーブルで強みを発揮している銅電線メーカーも国内よりも海外生産のほうが多い。技術リッチな素材であればまだまだ日本のモノづくりが世界一といって過言でないことを実際のマーケットが証明している。

 しかし、それは「MADE IN JAPAN」ではなく、「MADE BY JAPAN」とカタチを変えている。素材産業は装置産業だ。いったん海外に出てしまうと再びの国内回帰は難しいのが現実だ。グローバル化の一方で国内生産へのこだわりがなくなってしまうのは、大きくいえば国力の低下にもつながるのではないかとも危惧する。
 (text=アイアールユニバース社長・棚町裕次氏)

 ※日刊工業新聞で毎週水曜日に「資源商品市場を読む」を連載中
日刊工業新聞2015年06月10日商品市況面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
鉄鋼など素材産業は電力多消費産業の代表格だ。高い電気代の国内でも技術力で世界的なポジションを確保してきた。ただ高止まりする電気代は産業競争力をじわりとむしばんでいる。電炉メーカーで事業の縮小、撤退が相次ぎ、チタンメーカーでは東邦チタニウムが電気代の安価なサウジアラビアでの現地生産を決めた。円安で国内回帰というが、根本的な対応策が求められる。

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