価格勝負の時代は終わった!「言い値で買わなければ、それまで」

創業から74期連続で営業黒字のバネ屋さん

平均3.6個の超小ロット


 「言い値で買(こ)うてもらうバネ屋ですねん」―。東海バネ工業社長の渡辺良機は会社の説明を求められると、開口一番こう答える。「どうしたら価値ある商品を提供できるか、常に考え続けている」と語る渡辺は、ただ地道に精度の高いモノづくりを貫き、多品種“微量”生産で顧客の信頼を勝ち取ってきた。

 同社のバネは完全受注生産。わずか数ミリメートルから人の背丈ほどある大型まで、全て職人が特注でつくる。文房具、家電製品、自動車など、あらゆるものに組み込まれるバネは大量生産のイメージが強い。だが、渡辺は「勝負するのはスーパーニッチな市場」と、決して量は追わない。

 ロット平均はわずか3.6個。それでも依頼は年間700社以上、3万件にも上る。創業以来74期連続で営業黒字を達成している。渡辺は「バネと名の付くもので、できないものはない。唯一お断りするのは大量生産の依頼だけ」と断言する。

 「安売りでは本当の顧客満足は得られない」との考えは、31歳の時に訪れたドイツ視察で確固たるものになった。顧客との価格交渉をどうしているか、現地のバネ職人に尋ねると「こちらの言い値で交渉が決裂したら、それまでだ」と答えが返ってきた。顧客の要望に沿うよう、わずかな利益を削り対応してきたが「手作りのバネ屋がお客さまからいただくべき付加価値を削っていたら、ビジネスは成り立たない」。目がさめる思いだった。

H2Aロケットにも採用


 39歳の若さで社長に就任してからは、実直にモノづくりの精度向上に努め顧客満足を追求した。受注生産システムの構築など情報通信技術(ICT)をいち早く導入。年間100社のペースで新規顧客を取り込んだ。目に見える反響があることで職人の士気も高まった。品質に磨きがかかり、顧客の支持獲得と従業員の待遇改善の好循環が生まれた。日本の主力大型ロケット「H2A」など最先端分野に採用されたことは、職人にとって誇らしい実績のひとつだ。

 2001年に兵庫県豊岡市に工場を開設。13年までに生産ラインを同伊丹市から段階的に移管し集約した。職人の育成にも余念がない。社内道場「啓匠(けいしょう)館」を豊岡工場の敷地内に設け、国家資格取得に向け実技や座学を実施している。

 今後は海外の顧客開拓に打って出る。豊岡工場で職人を増員すれば「生産能力は3倍にできる」と拡充も検討。英語の受注システムも開発しており、世界中から需要を取り込み飛躍を目指す。

(敬称略、神戸・川合良典)

【企業プロフィル】
▽所在地=大阪市西区西本町2の3の10▽社長=渡辺良機氏▽創業=1934年(昭9)3月▽売上高=22億2500万円(16年12月期)

日刊工業新聞2017年8月8日

尾本 憲由

尾本 憲由
08月09日
この記事のファシリテーター

どこも採用難のせいか、少し町を歩けば求人チラシに出くわさない日はない。新規の時給を上げながらも、今いる社員は据え置きなんていう、けちくさい会社も結構あるようだが、そんなところからは早晩人材が流出してしまうに違いない。人であろうがモノであろうが、安く買いたたこうなんていう了見のビジネスモデルはもはや成り立たない。この記事を読んで、売る側も買う側も価格勝負の発想こそが諸悪の根源のような気がしてきた。

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Suzuki Ryuji
Suzuki Ryuji
08月09日
製造業のスケーラビリティーと、サービス業の高付加価値を併せもつ、素晴しいビジネスモデルだと思います。

  

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