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主戦の米国市場が失速、それでもスバルが勝ち続ける条件

余分在庫、常に目を光らせる
主戦の米国市場が失速、それでもスバルが勝ち続ける条件

販売が本格化する「クロストレック(日本名XV)」と吉永社長(左)

 米国の自動車需要の落ち込みが鮮明になっている。米調査会社オートデータがまとめた7月の米新車販売台数は、前年同月比7・0%減の141万5139台と、7カ月連続の前年割れとなった。乗用車の低迷に加え、市場をけん引してきたスポーツ多目的車(SUV)などの「小型トラック」も減少した。

 そんな中でSUBARU(スバル)だけは絶好調が続く。米国の販売台数は7月まで68カ月連続で前年実績を上回る状況が続いており岡田稔明取締役専務執行役員は「今後も米国販売は堅調に推移する」と話す。新型「インプレッサ」などが好調で、1~6月の総新車販売台数が上半期新記録の30万4810台と、前年同期比の9.1%増に上った。

 今後、米国でSUV「クロストレック(日本名XV)」の販売が本格化するが、金利上昇による販売奨励金の調達コストや次世代車開発の試験研究費が増える。「販売台数は未達で全然かまわない。在庫が増えすぎるほうが怖い」。スバル車の米国販売が大きく伸びる中、スバルの吉永泰之社長は在庫動向に神経をとがらせる。

 「これがスバルの販売店?と目を疑うくらい立派な建物だった」。北米営業を担当する早田文昭執行役員は苦笑いする。スバルにとって未開拓地区だった米国南部の有力ディーラーがスバル車のディーラー権を獲得。ここ5年ほどで真新しい販売店がいくつもできた。従前から販売シェアが高い米北部だけでなく南部でもシェアを伸ばした。「全米ディーラーは約620店舗とここ数年同じだが顔ぶれは変わった」(早田氏)。スバル車はもうかる―。米国ディーラーの共通認識だ。

 スバル車はここ数年の急激な販売拡大により、在庫が極端に少ない状況が続いた。販売奨励金は業界平均を大きく下回る。中古車の下取り価格も高く、スバル車の需要を喚起し、高い利益率となる好循環を生んでいる。

 極端な車の玉不足は販売機会の損失につながるため、米国工場では16年春から18年度にかけて能力増強を進めている。ただ車を作りすぎて在庫が増えると次第に奨励金で台数をさばくようになる。スバルが強みとしてきた従来のビジネスモデルが崩れる恐れがある。

 在庫を余分に持っていないか―。スバルオブアメリカは米国ディーラーの現場に目を光らせる。米国市場はガソリン安の影響でセダン系車種からSUV、ライトトラックに人気がシフト。新型「クロストレック」の投入も控え、SUVの販売比率が高いスバルにとって追い風が続く。“売りたい”ディーラーをマネジメントし在庫適正化を維持できるか。売れすぎリスクとのにらみ合いが続く。

「数字をよく見せることはしない」(吉永社長)


スバルが来年投入する北米専用大型SUV「アセント」

 「北米向け新型スポーツ多目的車(SUV)で子育て層など新規顧客を狙いたい」と話すSUBARU(スバル)米販売会社スバル・オブ・アメリカの中村知美会長。主戦場の北米で来年3列シート搭載の大型SUVを発売する。4月にコンセプト車を披露。「サイズを大きくし、現地で受け入れられるデザインにした」と強調する。米国工場では、新型車の生産開始に向けた準備が進む。SUV人気で販売競争が激化しているが「正しい値付けを続けて、車の価値を下げない従来のビジネススタイルを守る」と前を見据える。

 コンセプト車「ASCENT(アセント)」は7人乗りで、スバル車の中で最大サイズの車種。「これまでにない広い室内空間をぜひ楽しんでもらいたい」。4月のニューヨーク国際自動車ショーのプレゼンテーションの場でスバルの米国販売会社、スバル・オブ・アメリカのトム・ドール社長は、世界初公開したアセントを前に、身ぶり手ぶりを交えこうアピールした。

 7人乗りを実現した広い室内空間で、全長5050ミリ×全幅1989ミリ×全高1839ミリメートルと主力SUV「アウトバック」、「フォレスター」を上回る。

 北米ではガソリン安を背景にセダンからSUVを含むライトトラックへ人気がシフトしており、Dセグメントの大型SUVはもちろん「3列シート搭載車の需要が伸びている」(中村知美会長)。

 アセントの投入により北米でこれまで取り込み切れなかった子育て層など新たな顧客を獲得し、北米市場でシェア拡大を狙う。

 スバルは過去に北米向け大型SUV「トライベッカ」を投入しており、アセントはその後継車種にあたる。ただトライベッカは大型SUVの位置付けだとはいえ、北米向けとしてはサイズが小さく、動力性能にも課題があった。このため販売が伸び悩み、14年に生産を終了した。

 アセントではトライベッカの反省材料を生かし、北米で受け入れられるデザインを追求した。あるスバル幹部は「米国ディーラーも『これなら受け入れられる。売れる』と太鼓判を押している」と強調する。

 一方、大型SUVを巡る競争は年々激しくなっており、トヨタのハイランダー、ホンダのパイロット、日産自動車のパスファインダーなどライバルは多い。各メーカーは競うように「奨励金」を投入して販売店に値引きを促し、販売台数を下支えしようとしているが、息切れが目立つ。

 吉永社長は「新型車の投入が続く19年ごろまで販売は大崩れしないだろう。スバルにとっての勝負は20年以降だ。21年に発売するEV開発など先を見据えた投資を進める。今、車の販売が好調なのは4―5年前にちゃんと仕込みができていたから。17年度は営業減益の計画だが、数字をよく見せることに走らず、やるべきことをやる」と先を見据える。
 
日刊工業新聞2017年8月4日の記事に大幅加筆
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
17年度も営業利益率が12%と高収益力を維持する見通し。ただ吉永社長は「まだ安定的に利益率2ケタを出せる実力があるとは言えない」と冷静に分析する。電動化への対応をはじめとする次世代車に向けた思い切った投資は、ブランド力を磨き、中長期の安定成長につなげるための強い決意の表れと言える。

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