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ソニーのパラレルキャリア女子、次の夢は「秋元康」

ハピキラFACTORY・正能社長インタビュー 人生配分表で忙しさと付き合う
ソニーのパラレルキャリア女子、次の夢は「秋元康」

正能さん

 ソニー社員と、カワイイを切り口に地方を活性化するハピキラFACTORY社長の顔を持つ正能茉優さんに話を聞いた。
 ―ハピキラFACTORYの起業のきっかけは。
 「2010年の夏、大学3年生の時に長野県小布施町の街づくりインターンシップへの参加が最初のきっかけです。当時の街づくりは、道路や建物といった建築ばかり。この違和感を町長に伝えると、『やりたいことをやってみて』と言ってくれました。そこで、2泊3日でアイデアソンを行う若者会議を考えました。ダボス会議で有名なスイスの町のダボスは、森しかありません。会議の誘致で町の価値が上がったため、同じ事を小布施でやりたいと思いました。若者会議は現在9地域に広がっています」

 ―そこから、どうしてハピキラに?
 「当時、地方の町おこしに参加する女の子が少ないことが気になりました。地方はよくわからない存在だったんです。そこで、女の子が好きな『カワイイ』を切り口に地方を活性化するハピキラFACTORYを12年秋に立ち上げ、13年に法人化しました」

 ―ソニーでの仕事の内容は。
 「社内のイケてる基礎技術から、『こんなターゲットに、こんな体験を提供すれば価値になるのでは?』と考えます。そして、社内や家で実際にプロトタイプを使い、体験します。例えば、会社では気にならなかった大きさや音が、家では気になったりもします」

 ―ソニーとハピキラ、そしてプライベートのバランスをどう取っていますか。
 「ソニーへの出社前と退社後、そして土日をハピキラにあてています。両方大切です。私は仕事が楽しくて、放っておくとずっと仕事をしてしまいます。でも、祖母が体調を崩した時、『仕事ばかりして会う時間が少ないと絶対に後悔する』と思いました。そこで、今は『人生配分表』を作って、コントロールしています」

 ―どんなものですか?
 「人生の何割を何に当てるか配分を決めて、グーグルカレンダーでチェックし、調整します。今は、ソニーが3割、ハピキラが3割、家族や友達、彼氏、その他が4割です。それぞれの予定を色分けしてカレンダーに入れると、パッと見てバランスがわかります。ただ、例えば、ソニーの新商品イベント前などは忙しく、思い通りの配分にならない時もあります。ゆるめに運用するのがコツです」

 ―プライベートの時間が少なくなりそうですね。
 「自分の時間が圧倒的に少ないので、どう効率良く時間を使うかを考えます。『DMM Okan(おかん)』で、洗濯や家事を代行してもらったりします。嫌いなことをすると、色々なことへのやる気がなくなってしまうので。一方、お風呂掃除のような好きな家事は自分でやります」

 ―兼業をして、よかったことは。
 「人のつながりを活用できることです。ソニーの正能と、ハピキラの正能では会える人が違います。例えば、他社とコラボレーションをしたい時、ソニーの場合、最初は問い合わせフォームから連絡します。ハピキラでは意思決定側の人と会えるため、ソニーでの仕事に生かすこともできます」

 ―兼業や副業に興味があっても、やりにくいと感じる人もいます。
 「役員がいいと言っても、現場の雰囲気がNoの雰囲気ではやりにくいですね。ソニーは、現場レベルで、こういった活動や個性を認めて、がんばろうねという雰囲気があります。制度やスタンス、ムードなど全て含めた社風だと思います。例えば、同僚からハピキラのことを聞かれることもありますが、『今週末はどこ行くの?』みたいに、自然な尋ね方をしてくれます」

 ―兼業したい人にアドバイスはありますか?
 「ビュッフェのように好きにキャリアを選んでいいと思います。いろいろやる方がいいのではなく、カレーが好きな人はずっとカレーもいいし、カレーもパスタも食べたい人は両方食べる。バランスと量、何をするかの3点を考えることが大事です」

 ―今後の夢は?
 「ソニーでは、0から自分が関わったモノや体験を世界中に売りたいです。昨年ソニーに転職するまでは、身近な物事が中心でしたが、ソニーは良くも悪くもグローバルが前提です。だからこそ、世界中に届けることができます」

 「ハピキラでは、秋元康さんのようになりたいです。私が表に立って活動するAKB48でしたが、これからは何かを始めたい女子高生や大学生の女の子と一緒に地方を元気にするプロデューサーになれたらいいと思います。これを狙ったプログラムを、御茶の水美術専門学校などと始めています」
(聞き手=梶原洵子)
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
働く人自身が予定や自分の疲れをコントロールすることも必要だ。まずは先鋭的な人たちが実践することで、兼業・副業のやり方や時間管理のノウハウは徐々に蓄積される。これを共有し、兼業・副業が認知されていけば、中長期的に実行する人が増えていく可能性はある。早い段階で兼業の門戸を開ければ、社会を変えていくかもしれない。 (日刊工業新聞第一産業部・梶原洵子)

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