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東芝、米上級裁で喜びなき勝利。8月には和解を探る動きも

WDとの係争、着地点へのきっかけは?
 東芝の半導体メモリー事業売却の予備的差し止めを米ウエスタンデジタル(WD)が求めた訴訟で、米カリフォルニア州上級裁判所は判断を示さなかった。WDの請求を事実上退けた格好。東芝は売却手続きを進め、産業革新機構を軸とする「日米韓連合」などと最終契約の締結を急ぐ。ただ係争状態が売却を妨げる状況は変わっていない。上級裁の判断が東芝にもたらしたのは、喜びのない勝利というのが実情だ。

 カリフォルニア州上級裁判所が28日(米国時間)、売却の可否について判断を示さなかったことを受け、成毛康雄東芝副社長は「メモリー事業売却の交渉を進めて最終契約を締結するという権利が認められ、非常にうれしい」とのコメントを公表した。

 一方、上級裁は東芝が売却完了の2週間前までにWDに通知するよう提案。両者が最終合意し、審議は終了した。この事前通知ルールは、WDにとって売却差し止めに再度動くための時間的余裕を確保できる効果がある。

 WDは国際仲裁裁判所に売却差し止めを求めている。合弁相手であるWDの同意なく、東芝がメモリー事業を売却するのは契約違反と主張する。その法的正当性の判断は、上級裁から仲裁裁に持ち越された。

 両者の法廷闘争はこちらが本番で、8―9月に審議が始まる見込み。事前通知ルールの有効期限は審議開始から60日間。だがWDは仲裁裁に対して同様の事前通知ルールを設定するよう求め、期限を延長させる可能性が高い。

 仲裁裁が最終判断を下すには1―2年ほどかかる。その前に予備的に売却を差し止める暫定保全措置があり、その請求から1週間ほどで可否の判断は出る。仲裁裁に詳しい早川吉尚弁護士は「WDは事前通知を受ければ、即座に暫定保全措置を求めて売却阻止に動くだろう」と見る。今後も東芝は係争を抱え、売却差し止めのリスクにさらされる。

 東芝は6月にメモリー事業売却の優先交渉先に日米韓連合を選んだが、まだ契約を結べずにいる。売却完了時でもWDと和解できていない場合、日米韓連合は係争に負けた際のリスクを負うことになる。そのリスクの取り扱いを巡り、東芝と日米韓連合の意見がまとまらないことが、契約交渉を困難にしている要因の一つだ。

 東芝は上場廃止を避けるため、今年度中にメモリー事業を売却する計画。実現に向けて法廷でWDに負けないよう対処しながら、法廷外で和解の道を探る必要がある。
                 

(文=後藤信之)
日刊工業新聞2017年7月31日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
東芝とWDの係争には今のところ終わりが見えない。だが両社共通のライバルである韓国サムスン電子が勢いを増す中、「ケンカしている場合でない」というのは両社も十分にわかっているだろう。来月8月ぐらいから和解を探るアクション(力でねじ伏せるためのさらなるパンチかもしれないが)が出てくるのではないだろうか。

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