<名将に聞くコーチングの流儀#05> 安芸南高校サッカー部・畑喜美夫監督

どんな状況も自分で切り拓く人材を育成

 練習内容やベンチ入りメンバーは部員が決める、練習は週2回で指導者は具体的な指示を出さない。このスタイルを貫き、常勝チームへ変革する名将がいる。広島県立安芸南高校サッカー部監督の畑喜美夫氏である。その指導の根底にあるのは「ボトムアップ」の考え方。部員主体の運営で、自らに考えさせることで判断力や実行力を養う。観守り役に徹し、適切なタイミングでの助言を行うことで部員の思考力がさらに深まるように導く。その独特の自立型指導スタイルに迫った。

良い習慣が才能を超える


 ─これまでに率いたチームの実績は。
 畑「前任校の広島観音で2005年全国高校サッカー選手権ベスト8、06年の全国高校総体で初出場初優勝など、在任14年間で12回、全国規模の大会に出場。安芸南も指導5年間で県4部(ランキング70位相当)から県1部(8位相当)になりました」
ミーティングをする生徒たち

 ─ボトムアップによる指導の狙いは。
 畑「知力と体力、気力、実践力、コミュニケーション力の5つの力を身につけてどんな状況でも自分で切り拓く選手を育成することです。練習内容や試合に出場するメンバー、ゲームプランは選手たちのみで話し合って決めて、私はその報告を後から受けます。“選手育成の3本柱”“組織構築の3本柱”の法則が土台になっています」

 ─それぞれの法則を詳しく教えてください。
 畑「選手育成の3本柱は「あいさつ・返事・後片付け」です。“良い習慣が才能を超える”と信じています。あいさつは言うまでもありません。返事は「いいえ」と言えるかが重要です」

 「指導者の言っていることが適切でないと思えば、判断をして自分の意見を述べる選手でなければなりません。もちろん指導側が意識的に、意見を言いやすい雰囲気や問いかけを行う環境づくりを行うことが前提です。後片付けは、部室や試合時のロッカールーム、ベンチでバッグやシューズを整頓して並べたり、常に掃除をしてきれいに使用することです」

 「組織構築の3本柱は、『量より質の練習』と『自主自立の精神(選手選考の基準づくり)』などです。練習は火・木曜日の週2回しか行いません。“質”とは科学的な根拠に基づくこと、実戦を想定することを意味します。ポイントはしっかり脈拍数を上げて試合と同じ疲労感や状況で、判断や技能を発揮できるかを追求すること」

 「練習の翌日が休みであれば、“少ない練習の機会をムダにすまい”という意識が働き、高い集中力で練習に臨めます。うまくいかなかったことがあれば原因を次の練習までに考える時間もたっぷりあります。物足りないと思えば、自主練習しても良いのです」

 「考えたことを試そうと次の練習ではさらに高いモチベーションで望めるはずです。やるべきことを考えさせます。選手選考の基準づくりは、「社会性、賢さ、うまさ、強さ、速さ」の順番で選考することを全部員で共有し、部員たちで選考します。それぞれに共通していることは生徒が創造性を発揮して日常生活もコーディネートし、5つの力を高めることが狙いです」

日常生活も含めてサッカーはうまくなる


 ─サッカー以外のことを重要視していますね。
 畑「“オフ・ザ・ピッチ”、つまり競技以外の日常生活を通してサッカーはうまくなります。シューズを整頓するときも、最初はただ単に並べて置いておくだけでしたが、等間隔で並べたほうがきれいに見えるということに生徒自身が気づきました」

 「次に拳1個分の間隔で配置するときれいという声が出て、ミリ単位でこだわるようになってきました。実はこれが狙いです。試合中の相手選手や味方との距離間、ポジショニング、パスを出す位置に通じます。こうしたことが勝敗につながります」

 ─試合出場メンバー選考の基準である“社会性”をどのように理解させているのでしょうか。
 畑「簡単なことです。学校生活が乱れていて、生徒指導で放課後に呼び出されて練習に参加できない生徒でも、技能的に優れた部員が試合に出場していました。しかし、試合で勝てない。練習に出ていなければ周囲と息が合わないから当然です。部員間で不平不満が出てきます」

 「一方で下手でも日常生活をしっかりと送り、真面目な生徒が試合に出ると攻撃でも守備でも献身的なプレーを行います。そうしたプレーを見ているとミスをしても不平不満が出ません。こうして、生徒は「技能よりも社会性が大事。日常生活であるオフ・ザ・ピッチをしっかりしていないと試合に出れないし、勝てない」と理解するのです」
整理整頓が行き届く

ミッションとビジョンを考える


 ─高校生にとってはレベルの高い組織運営です。
 畑「ミッションとビジョンを理解できれば自然とできます。たとえば、基本的なミッションとして“道徳心、倫理感を持った人間力を高めることを追求する”と定めます。そのあとのビジョンとして“県大会ベスト4”など具体的な目標を定めます」

「そうすると、試合に勝っても負けても、一喜一憂するのではなく、その原因を顧みたうえで、「相手をリスペクトできたか?もっとどう戦えばグッドゲームができたか?」という質の高い振り返りができ、高い基準で選手も指導者も自己評価が行えます。生徒が手応えを感じていく様子を観守るのは楽しいことです」
(聞き手、文=成島 正倫)

〈私のコーチングの流儀〉


 ―観察すること、観守ること
教えることは忍耐が必要です。でも忍耐と思うと思い通りにいかないときにつらくなる。観察と思えば、少しの変化が面白くて、指導者のモチベーションは常に維持できます。


〈略歴〉
畑喜美夫(はた・きみお)1965年広島市生まれ。順天堂大学2年時にU-20日本代表に選出。4年時はゲームキャプテンとして総理大臣杯、全日本インカレ、関東選手権の大学サッカー3冠を達成した。卒業後、高校教員となり、広島観音高校では06年の全国高校総体で初出場初優勝など、数々のタイトルを獲得。09年はU-16日本代表コーチも務めた。現在、安芸南高校体育課教諭


日刊工業新聞「工場管理2017年8月号」」

宮里 秀司

宮里 秀司
07月29日
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人間教育と勝てるチームを作ることは、両立するのが難しいと感じます。こうした中で、実績を残していることに説得力を感じます。サッカーに限らず、すべての部活において参考になるのではないでしょうか。

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