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日本企業で2050年「CO2ゼロ」宣言が相次ぐのはなぜ?

ESG投資・SBTの登場により重みを増す
日本企業で2050年「CO2ゼロ」宣言が相次ぐのはなぜ?

写真はGE Reports Japanより

 2050年までの環境長期目標を作る企業が増えている。4月以降、リコー富士通、コニカミノルタ、パナソニックなどが公表し、今月7日にはNECも発表した。しかも二酸化炭素(CO2)排出量ゼロを宣言する意欲的な目標が目立つ。規制が厳しくなる将来への危機感や、持続的に成長する企業を支援したい投資家からの要請が、高い目標設定に慎重だった日本企業を突き動かしている。

NECが再生エネ・クレジット活用


 NECは7日、工場や事務所でのエネルギー利用に伴うCO2排出量を50年までにゼロにすると発表した。省エネルギー化の徹底と再生可能エネルギーの活用で排出を減らす。削減しきれなかった残りの排出量は、他の場所での削減を自社分に加えられるクレジットを調達して打ち消し、実質ゼロにする。

大幅な省エネ化を目指すデータセンター(富士通提供)

 富士通の50年目標も同様で、省エネの推進、再生エネとクレジットの活用でCO2排出をゼロ化する。同社は途中の30年度に13年度比33%削減する中期目標も設定した。

 リコーとコニカミノルタはこれまでの50年目標を刷新した。リコーは50年のCO2排出ゼロに向け、再生エネの導入目標も示した。30年までに事業で使う電気の30%以上、50年には全量を再生エネ由来に切り替える。コニカミノルタは50年度に05年度比80%減とする目標に、取引先のCO2削減支援を加えた。省エネ手法を提供した取引先の削減量を、自社の排出量と同量以上とし、CO2を実質ゼロにする。

早めのリスク対策で有利に


 50年に照準を定めた環境目標の公表は、温暖化対策の国際ルール「京都議定書」の削減期間が始まった08年前後に一度、盛んになった。前回と今回との違いは、“排出ゼロ”というハードルの高い目標を掲げる企業が多いことだ。

 日本では実現の確証のない目標は公表を控えるのが普通だった。30年に13年比26%減とする日本全体の温室効果ガス削減目標も、政府は既存技術をできる限り導入した前提で導き出した。

 また企業には「経団連、業界団体よりも高い目標は言えない」との空気もある。業界団体は排出抑制が事業の足かせになるとし、厳しい目標に反対してきた。しかし現在は、個別企業の立場になると意欲的な目標を設定する“ねじれ”が起きている。
 


 NECの大嶽充弘執行役員常務は「50年の社会を議論する場が増えている」と、長期目標を作った背景の一つを説明する。京都議定書に代わる「パリ協定」は、今世紀後半に温室効果ガスの排出ゼロを目指す。国も将来の絵姿が必要となり、「50年80%減」の長期目標を策定した。

 50年の社会像を考えると、将来の経営リスクに気づく。富士通環境本部の金光英之本部長は「コスト上昇に備え、前倒しでの対応が重要と考える」とCO2排出ゼロを目標とした理由を話す。

 危機感を抱くのが、CO2排出量に課税する炭素税などカーボンプライシング(炭素の価格付け)の動向だ。中国で17年から排出量取引が始まるなど、世界で導入への機運が高まっており、CO2排出がコストとして経営の重しとなる可能性が出てきた。

 実際に同社のデータセンターのエネルギー消費量は年8%の勢いで増えている。カーボンプライシングを想定すると、数%の省エネではコストを抑える効果は薄い。大幅な省エネ技術の開発を社内に促そうと、CO2排出ゼロの高い目標を設定した。
NECの環境長期目標の記者発表会

 積水ハウスは08年に住宅にかかわるCO2排出ゼロを目指すと宣言。一方で石田建一常務執行役員は「マーケットリーダーになりたい」とし、宣言は「事業成長と連動した目標だ」と強調する。

 国は15年に「30年26%減」のCO2排出削減目標を決定し、このうち家庭部門を約40%減とした。エネルギー消費が実質ゼロの住宅(ZEH)を標準化する方針も決めた。積水ハウスは09年にCO2排出量を半減した住宅を、13年にはZEHを製品化済み。排出ゼロ目標を掲げたおかげで国の動きに先行できた。

 トヨタ自動車は15年に公表した50年目標でエンジン車を大胆に減らし、自動車に関連するCO2を90%削減すると宣言した。7日にはフランス政府が40年までにガソリン車とディーゼル車の販売をやめる方針を打ち出しており、トヨタは規制を先取りする形となった。長期目標を検討するために将来の市場変化を予測することで、リスク対応や技術開発で他社に先行できる。

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日刊工業新聞2017年7月21日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
 環境目標がお飾りになっている企業が多いかもしれません。SBTは企業が自由に作っていた環境目標を「世界標準」で見比べる仕組みと理解しています。「環境先進企業」という言葉も良く聞きますが、こちらも定義がありません。それがSBTの登場によって長期目標を持たない会社は、環境先進企業として認められない状況が作られようとしています。もちろんSBTは規制ではないので、承認を目指す、目指さないは自由です。

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