東芝、メモリー売却でWD・鴻海と再交渉。「日米韓連合」の調整に時間

ハイニックスの議決権要求、条件調整は難航

 東芝は11日、主要取引行と会合を開き、半導体子会社「東芝メモリ」の売却をめぐり、米ウエスタンデジタル(WD)と台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と再交渉していると説明した。優先交渉先である「日米韓連合」との調整に時間がかかっており他陣営とも協議を進める。

 WDが米裁判所に起こした売却差し止めに関する裁定が早ければ14日に下されるのに先立ち、三井住友銀行、みずほ銀行など主要7行と都内で会合を開き現状報告をした。

 関係者によると、産業革新機構、日本政策投資銀行、米ファンドのベインキャピタルなどで形成する日米韓連合との調整に時間がかかっており、東芝は同連合に了承を得た上で、他陣営と交渉を進めていると説明した。
日刊工業新聞2017年7月12日

米裁判所が14日裁定、同意権放棄が焦点


 東芝の半導体メモリー事業売却をめぐる同社と米ウエスタンデジタル(WD)の対立が節目を迎える。早ければ14日、WDが米裁判所に起こした売却差し止めに関する裁定が下る。東芝が同事業売却のために必要とされるWDの同意権が焦点の一つ。一方、東芝が優先交渉先に選んだ「日米韓連合」との契約は、韓国SKハイニックスが経営への関与を求めたことで調整が難航。経営再建の切り札であるメモリー事業売却の行方はなお不透明だ。

 今回の裁判所の判断材料で、重要なのは緊急性の有無だ。仲裁裁に詳しい早川吉尚弁護士は「本事案は緊急性があるとみられる。WDの訴えが通る可能性は十分にある」と解説。一方、東芝関係者は「WDの主張が全面的に認められることはないのでは。それほど心配していない」と強気だ。その裏には何があるのか。

 東芝は巨額損失の穴埋めのため、メモリー事業を手放す。同事業の資産を移転して4月1日付けで子会社「東芝メモリ」を発足、売却手続きを始めた。東芝とWDは、合弁会社を運営しメモリー事業を展開する。東芝メモリの資産には合弁会社の持ち分が含まれている。「同意なく合弁持ち分を子会社に移転したり、第三者に売却したりできない」というのがWDの主張だ。

 これに対し東芝は6月3日付けで、合弁持ち分を東芝本体に戻した。WDが主張する契約違反状態を解消し訴えを無効化する狙いだ。WDも引かず、新たな戦略を打ち出す。同上級裁判所への訴えでは、同意権は東芝の合弁持ち分にとどまらず、メモリー事業のあらゆる資産に及ぶとの主張を明確に訴えた。

 仮にWDの主張が全面的に認められ、あらゆる資産を東芝本体に戻す事態になれば、東芝メモリは“空っぽ”になり売却手続き継続は困難になる。当然、東芝は反論書でWDは同意権を拡大解釈していると反論した。

 東芝は単独保有する知的財産などにも同意権が及ぶというのは明確な誤りとみており、「裁判所の常識的判断を期待する」(関係者)。早川弁護士も「裁判所が、合弁持ち分の移転のみを制限するなど限定的な判断を下す可能性はある」と指摘する。
               

交渉の強力なカード、四日市新工場


 東芝は上場廃止を避けるため、東芝メモリを17年度中に売却したい考えで、正式契約に向け産業革新機構を軸とした「日米韓連合」と優先交渉する。同連合はWDとの係争解消を求めているが、東芝はWDに全面敗訴しなければ、とりあえず「粛々と売却手続きを進める」(関係者)意向。ただ、合弁持ち分を移転できないままでは「最終的に東芝メモリの価格は下がるだろう」(ファンド関係者)。2兆円の価値の維持には売却前にWDに同意権を放棄させる必要がある。

 交渉の強力なカードになるのが、四日市工場(三重県四日市市)に建設中の「第6製造棟」だ。東芝とWDは合弁会社を通じて四日市工場に生産設備を共同投資し、生産したメモリーチップを分け合ってきた。同工場の各棟ごとに合弁会社を設立してきたが、第6製造棟をめぐってはまだ契約を結んでいない。

 東芝は日々の工場運営をほぼ一手に担っており、第6棟での生産設備導入について「WDとの共同投資を協議中だが、成立しない場合は東芝メモリ単独で導入予定」との方針を示した。WDが第6棟に関われず、先端チップを調達できなければ経営に与える負のインパクトは大きい。

 こうした状況から、東芝は第6棟の合弁契約を締結する代わりに、メモリー資産の移転・売却に対する同意権の放棄をWDに求める可能性が高い。ただ訴訟戦略としてWDは「契約内容で東芝に譲歩を迫ってくるだろう」(早川弁護士)。例えばチップを東芝メモリより有利な条件で調達できるなどの契約が考えられる。東芝が大きく押し切られれば、同意権を放棄させても、東芝メモリの事業価値が下がる結果に陥る。WDとの困難な交渉はまだ続く。

日刊工業新聞2017年7月11日「深層断面」から抜粋

後藤 信之

後藤 信之
07月12日
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 日米韓連合の懸案事項となっている韓国SKハイニックス。同社は融資という形で参加する見通しだったが、一定条件で株式に変えられる転換社債を通じた資金提供などを提案していることが明らかになった。将来的には最大33・4%の東芝メモリの議決権を取得する意向を示している。東芝の綱川智社長は「融資という形で議決権は持たない」と説明してきた。融資の形によるSK参画は妙案だったはずだが、その先に議決権取得があれば本末転倒。相手のしたたかさに足をすくわれた。
 今後は「SK側に再検討してもらうしかない」(東芝関係者)。SKが経営に関与しない、もしくはその割合を最低限にし、それを契約上で明記するのが不可欠。独禁法リスクの排除のため、将来の議決権比率の上限などを契約で徹底的に縛る必要がある。関係者は「協議は進展している」と話すが、条件調整は難航しているもようだ。
 融資によるSKの参画が明らかになった時、業界関係者の多くが首をかしげた。SKは元々、東芝と次世代半導体の開発などで協力しており、買収への参加で関係性を強化できる可能性はある。ただし議決権を保有しなければ経営に関与できず「何のために大金を払うのか」という疑念は強かった。革新機構関係者は「オフィシャルには議決権を持たないと聞いていた」と弁解する。しかしSKが議決権を求めてきた以上、東芝はもちろん、売却スキームを側面支援している産業革新機構や経済産業省の詰めが甘かったと言わざるを得ない。

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