日本人、月へ、そして火星へ。JAXAのシナリオ

次期ISSプロジェクトにコア技術提供、米頼みの側面も

 月へ、そして火星へ―。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、米国による2030年の月面到達プロジェクトへの参画を目指している。同プロジェクトは月だけでなく有人火星探査まで視野にいれ、24年まで運用を継続する国際宇宙ステーション(ISS)に続く「月近傍有人拠点」を整備する。JAXAはこれまで積み上げた宇宙関連技術でプロジェクトに貢献しながら、日本人宇宙飛行士による月面到達につなげたい考えだ。

 次期ISSとして米国が検討中の月近傍有人拠点は、月からの距離が4000キロ―7万5000キロメートルの楕円(だえん)軌道上を周回する。

 4人の宇宙飛行士が15―90日間滞在することを想定している。同拠点はローバー(探査車)を利用した月資源の探査、通信が難しい月裏側や同極域探査での通信中継、再利用型有人宇宙船の係留地として電力供給を受けるなど月面探査の中継基地として重要な役割を果たす。

水氷の利用も


 さらに将来の火星探査への貢献にも期待が集まる。地球から火星までは遠い時には数億キロメートル(16年の最接近時は約7500万キロメートル)で、往復の旅程は3年との見方もあり、月と比べて桁違いに遠い。

 有人火星探査を実現する上で大きな課題は、必要になる大量の燃料をどう調達・輸送するかだ。 月にあるとされる水氷を有人火星探査機の推薬として利用できれば、地球から打ち上げるより大幅に燃料を節約できる。

 新ステーションは地球圏より遠い「深宇宙」探査のための推薬を補給する軌道上サービス拠点となるかもしれない。こうしたプロジェクトのコア技術を提供し、世界的な宇宙開発で確固たる地位を占めるのがJAXAのシナリオだ。
                      

 日本は月着陸を目指す技術実証機「SLIM(スリム)」の開発を進めており、19年度にも小型固体燃料ロケット「イプシロン」で打ち上げる計画だ。

 スリムでは誘導制御アルゴリズムや位置・速度の航法制御、障害物回避、エンジン技術などを実証する。米国による新ステーション整備と月着陸計画に適用する狙いだ。

 日本はすでに07年に打ち上げた月周回衛星「かぐや(SELENE)」の観測結果から、月南極域の水氷が宇宙船の燃料に利用できる可能性を示した。同衛星の観測結果を生かし、スリムの着陸点を選定する計画だ。

 日本は得意とするロボット技術とこれまでの宇宙飛行士の派遣で培ったノウハウを組み合わせ、新ステーション計画において月の南極域に宇宙船の推薬生成プラントや月面と同拠点をつなぐ再使用型輸送システムを構築していきたい考えだ。

 さらに有人月面探査や推薬生成プラント建設を通じ、月南極周辺の科学探査の機会を得ることも狙う。

 また、ISSでの日本人宇宙飛行士の実績を米国にアピールし、新ステーションへの日本人宇宙飛行士参加を勝ち取ることも重要課題。実は今秋にISSへ飛び立つ金井宣茂宇宙飛行士以降、日本人の宇宙飛行士は決まっていない。

 日本の技術力を維持するため、日本の宇宙技術の高さを示し続け、新ステーションへの宇宙飛行士の参加の実現を目指す方針だ。

絵に描いた餅にも


 JAXAは公開したシナリオで、有人用大型ロケットや有人宇宙船を自ら開発しない方向を明確にした。限られた予算の中で宇宙開発を行う日本にとって、米国の大型有人ロケットや宇宙船の能力活用が重要だと位置づけた。

 このため、JAXAのシナリオは米国の計画の進捗(しんちょく)に大きく左右される。米国が進めている次世代大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」と有人宇宙船「オライオン」の開発は、すでに半年から年単位で遅れている。

 その米国は、ISSへの飛行をロシアなど他国のロケットに依存しているのが実情だ。

 スペースXをはじめとした民間ベースの開発が急速に進んでいるとはいえ、SLSやオライオンの開発の遅れは新ステーションの構築時期にも大きな影響を与える。JAXAの描くシナリオも、米国の動き次第で絵に描いた餅になりかねない。
                  

(文=冨井哲雄)

日刊工業新聞2017年7月3日「深層断面」

日刊工業新聞 記者

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07月09日
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 世界で地球圏より遠い宇宙である「深宇宙」への進出に向けた動きが起きている。米航空宇宙局(NASA)は20年代の有人火星ミッションをゴールにした「深宇宙探査ゲートウェイおよび輸送手段計画の進捗状況」を17年に発表。この最初の段階として月近傍での拠点整備を掲げている。
 一方で欧州宇宙機関(ESA)はさまざまな目的を持つ人々が月面に集まり成果の創出を目指した「ムーンビレッジ構想」を掲げている。3Dプリンター技術で月面の土壌から基地を作り、宇宙飛行士や無人のローバーとともに活動する深宇宙探査拠点の設置も想定している。さらに月より遠い場所にある観測のために、月の土から望遠鏡を作ることも検討中という。
(日刊工業新聞科学技術部・冨井哲雄)

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