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重工大手が航空機エンジンの修理・整備事業を拡大するワケ

国産開発へノウハウ蓄積
重工大手が航空機エンジンの修理・整備事業を拡大するワケ

エンジン整備を手がけるIHIの瑞穂工場

 航空機エンジン部品を手がける重工メーカー各社が、エンジンの修理・整備(MRO)事業を相次いで拡大する。IHIは2017年度から、欧エアバスの小型旅客機「A320ネオ」用エンジン「PW1100G―JM」のMROを瑞穂工場(東京都瑞穂町)で始める。川崎重工業は24年度にも、同エンジンで民間機エンジン向けMROに本格参入する。エンジンの分解・組み立てを手がけるMRO事業。各社は利益貢献に加え、国産民間機エンジン開発に向けたノウハウを蓄積する機会として位置付ける。

 PW1100G―JMが搭載されるA320ネオは、整備機能を保有しない格安航空会社(LCC)も採用しており、大きな整備需要が見込まれる。MROを手がけられる台数は、エンジン開発への参画比率で決まる。日本勢は23%のシェアで参画しており、ピーク時の割当台数は年100台規模になるとみられる。

 IHIは瑞穂工場の既存建屋にPW1100G―JM向けのMRO設備を整備する。17年度は数十台のMROを手がける計画だ。

 同エンジンは出荷が急拡大し、20年に800台(16年は約200台)以上を計画。整備台数の飛躍的な伸びが予想される。IHIは一定規模の整備台数が確保できた時点で、MROの新工場を建設する方針だ。

 川重は防衛省向けにMRO事業を実施していたが、PW1100G―JM向けで民間機エンジンのMRO事業に参入する。21年度から整備士のトレーニングなど、事業展開に向けた準備に乗り出す。明石工場(兵庫県明石市)を軸に、MRO工場の新設も検討する。

 一方、三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市)は、エアバスの「A320シリーズ」などに搭載される「V2500」エンジンのMROを16年7月から開始。現在まで月2台で実施し、17年度下期から同3台に引き上げる。同社もPW1100G―JM向けMROの権利を持つが、実施は未定という。
日刊工業新聞2017年6月19日
長塚崇寛
長塚崇寛 Nagatsuka Takahiro 編集局ニュースセンター デスク
 機体部品とともに、日本勢が存在感を示すのがエンジン部品だ。同部品は多品種少量生産で、利益を確保するには高い生産性が不可欠。国内生産が基本で円高の影響も大きく受ける。  課題解決に向けてIHIは18年度までに、航空機エンジン部品を生産する4工場にIoT技術を導入する。生産状況を常時把握するITシステムや一部工程にロボットを採用。4工場全体で生産性を現状比2倍に高める。協力企業もネットワーク化し、サプライチェーン全体で生産効率を底上げする。  対象とするのは航空機エンジン部品を生産する相馬第一・第二工場(福島県相馬市)、呉第二工場(広島県呉市)、エンジンやガスタービンの組み立てと整備を担う瑞穂工場(東京都瑞穂町)。さらに相馬工場と呉工場の約20社の協力工場をネットワークでつなぎ、生産進捗(しんちょく)を常時把握することも検討する。低圧タービン部品などを生産する相馬第一・第二工場では、作業者や加工物の位置情報を収集するITシステムを拡充する。ビーコンで作業者やモノの流れを把握し、作業指示を最適化するほか、数値制御(NC)加工機のNC信号を分析して生産ラインの稼働率を改善する。  川重も20年までに、エンジン部品生産にIoTを導入する。西神工場(神戸市西区)の四つの工場棟とチタンやニッケル部品の粗加工を担う約20社の協力会社をネットワーク化。社内外の生産計画や進捗を常時把握するほか、センサーで設備を管理。工期短縮や設備稼働率の向上につなげる。IoT化で工期・工数を15年度比25%削減する。  工場棟や協力会社をネットワークでつなぎ、部材・部品の詳細な情報を共有。統一した生産計画のもと、外注を含む生産の全体進捗をフォローする。膨大な生産データを収集・分析すれば、生産変動が生じた際に高精度な検証が可能。国内外を問わず部品の安定供給を実現する。  民間航空機エンジン事業は初期投資が巨額になる上、投資回収に長期間かかる特殊なビジネスモデルとなっている。このため、中長期の伸びは確実でも毎年、一定の利益を確保し、増産対応するには生産性向上が欠かせない。

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